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special short・1《チョコとサンタとクリスマス》
* * *
バイトを終えた綛谷がやって来たのは、祖父が自分の部屋に戻ってしまった、10時すぎだった。
「…た、ただいま…!」
仕事を終えるなり、ここまで走ってきたという綛谷が、頬と鼻の頭を真っ赤にした顔で、息を弾ませながら笑った。
「お帰り。…わざわざ、走ってこなくてもよかったのに」
そう言った途端、綛谷が頬をプクッと膨らませる。
「何言ってるんだよ。だって、今日はイブじゃん。少しでも早く、紺野に逢いたかったんだもん」
“喜んでくれないの?”とでも言いたげな視線から、パッと顔をそむける。
「…ただでさえ、バイトで疲れてるんだから、無理するなって言ってるんだ、アホ」
心持ち、早口で捲し立て、僕は台所へ向かった。
今日の夕食は天ぷらだったのだが、頬と鼻の頭が真っ赤になった綛谷には、何か温かいものの方がいいかもしれない。
「綛谷。うどんと蕎麦、どっちがいい?」
冷蔵庫の前から訊ねれば、コートを脱いで、こたつに入った綛谷が、テレビのリモコンを取りながら“うどん~”と、間延びした声で答える。
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