それでも恋をする

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「失礼します」  一礼して職員室に入る。私に気づいて高田先生が視線をあげた。そしてにこっと笑う。先生は確か27歳だと聞いたことがある。27歳の男性がこんな顔をして笑うものだろうか。 「……先生」 「ん?」 「私が取りに来る必要はあるのでしょうか?」  ああ、なんて可愛くないんだろう。本当は先生と話す機会が増えて嬉しいのに。 「……」  高田先生はちょっと困った顔をした。 「谷川はやっぱり取りに来るの、嫌、なのか?」 「やっぱりって……」 「重いなら半分先生が持つぞ?」 「そういう問題では……」 「学級委員の谷川にばかり頼って悪いとは思っているんだ」  高田先生はすまなそうな顔をして私を見た。 「でも、やっぱり谷川は頼りになるもんだから……」  そんなこと言われれば断れるわけない。ううん、たぶんそう先生の口から言ってほしかっただけなんだと思う。 「いいです。持っていきます。ください」   たぶん赤くなっているだろう顔を見られないようにそっぽを向いて手を出す。 「重くないか?」 「大丈夫です」 「ありがとう」  直視できないけれど、先生がきっと無邪気に笑っているのがわかる。本当に罪作りな人だ。 「おや、また谷川ですか?」  世界史の山下先生が牛乳パックを手に高田先生の隣の席へ戻ってきた。 「高田先生は谷川に頼りすぎですよ~」 「そうですかね~やっぱり」 「まあ、気持ちはわかりますけれどね」  二人が会話をしだしたので、私は退場することにした。 「失礼しました」 「あ、谷川。ありがとうな」  先生が私に声をかけた。 「……」  私は黙って職員室を出る。  出てから私はふうとため息をついた。  本当はすごくうれしい。でも、こんな乙女な自分を見せるわけにはいけない。  勘違いしちゃいけない。先生が必要なのは、頼りになる学級委員で、私ではないのだ。  でも。  きっと嫌われてはいない、よね。  それで十分。  正直、学級委員なんて高三の三学期にやりたいものではないだろう。受験の忙しい時なのに。  ただ、私は要領が悪かったし、頼まれても断るだけの勇気もない人間なのだ。というのは建前で、先生に少しでも近づけるならと引き受けてしまった。結果的にそれは功を奏して、先生はなんでも私に頼んでくる。 (前の学級委員にもこうだったのかな? ーー考えても仕方ないことだ)  私はプリントをしっかりと携えて教室へ向かった。
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