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「ねえ、高田先生さあ、なんでも谷川に頼りすぎじゃない?」
階段の上から聞こえてきた言葉に私は思わず足を止めて身をひそめてしまった。
これはたぶん佐々木さんの声。
「学級委員だからじゃない?」
こっちは佐々木さんの仲の良い友達の井上さんの声だ。
「それだけかな?」
「それ以上に何かあるわけないじゃん」
「そうだよね。先生と生徒だし。それに、谷川だもんね」
最後の言葉にひどく傷つく自分がいた。
「だね~。私が男だったら谷川はないなあ」
「まじめだけが取り柄で可愛くないもんね」
「そう」
『可愛げがない』
二人の声が重なった。二人の笑う声が遠くなっていく。
私はしばらく動けなかった。
自分で常々思うこと。でも。
(やっぱり他人から見てもそう思われているんだなあ)
不覚にも涙がにじんでしまった。
「……」
「? 谷川?」
後ろからの声に私は振り返れなかった。先生の声だったからだ。
「どうかしたのか?」
「いいえ、ちょっとめまいがしただけです。大丈夫です」
「体調が悪かったのか? プリント持たせて悪かったな」
そう言って高田先生は私の持っていたプリントを持とうとした。
「いいです! 大丈夫ですから!」
(だって、これを運ぶのは私の役目なのに! 役目のない私なんか、先生はいらないはず!)
私はプリントを渡すまいとした。
「……」
高田先生は驚いたように私の顔を見た。
「谷川、泣いているのか?!」
「泣いていません」
一番見られたくなかったのに。
「……」
俯いた私に、先生はただ黙って私の頭をポンとたたいた。
「?」
驚いて先生を見るとにじんでいた涙がこぼれた。先生はちょっと困ったように笑った。
「まあ、いろいろあるよな」
そう言って深く追求しない先生をやっぱり好きだなと思った。
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