それでも恋をする

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「先生、起きてください。もう終わりましたよ」  私はそっと先生の肩をゆすった。私の言葉に高田はまだ眠たそうに目をこすりながら顔を上げた。そして子供のように安心しきった笑顔を私に向けた。  どきりとした。 「やっぱり谷川がいると助かるな」  そんな顔で言うなんて反則だと思う。私はふいと目をそらして、 「はいはい」 と照れをかくすためにぶっきら棒に答えた。 「谷川がお嫁さんだといいな」 「は?」 「え?」  思わず先生を見る。先生も自分で何を言ったのか、驚いているようだった。 「えっと……」 「な、何馬鹿なこと言ってるんですか?!」  一瞬、驚きとともに嬉しさを感じてしまった自分に腹が立つ。どうせ冗談に決まってるのに。そしてそんな風に思う自分はやっぱり可愛げがないと思う。 「ふっ」  高田先生が笑った。 「な、なんですか?」 「谷川、可愛いな。耳まで真っ赤だよ」 「……!」  言われて慌てて耳を手で隠した。 「隠さなくていいのに。ははは」 「……」  逃げ出したいくらいに恥ずかしい。先生はくすくす笑うのをふとやめた。 「もうすぐ卒業だな、谷川」 「そう、ですね」 「さみしくなるな」 「……私もです」  珍しく素直に言葉がでた。先生は驚いたように私を見た。 「谷川……」 「はい?」 「やっぱりお嫁さんにならない?」  私は先生の目をじっと見た。邪気のない目で先生はわたしを見つめ返してくる。 (どうとったらいいのかな。どう返事したらいいんだろう) 「谷川?」 (でも、でも、これはチャンスかもしれない。今、素直にならなくてどうするんだろう。私、本当は、いつも思っていた。先生の前では可愛い女子でいたい) 「な、なってもいい、ですけどっ」 「なんでそこでそっぽむいちゃうかな?」 「は、恥ずかしいからです!」  先生が私の頬に手を添えて自分の方へと向かせた。 「!?」 「ほんとだ、谷川の頬、熱い。 ほら、そこで目をそらさない」  先生はコツンと私の額に自分の額をくっつけた。 「なっ!」 「うーん、可愛いからキスしたいけど、谷川が卒業するまで待つか」  私は何か言葉を返そうとしたがパクパクと口が動くだけで言葉にならなかった。  先生は満面の笑みをたたえて私を見ている。子供扱いされているようでちょっと悔しい。  私は先生が私を選んだ理由が気になった。選ばれる理由なんてない気がした。 「……どうして私なんですか? ……さ、佐々木さんは?」  先生は目を見張った。 「あ……佐々木な、知ってたのか。受験前に告白に来たよ。勇気ある娘だな」 「……私より佐々木さんのほうが可愛いと思いますけど」  可愛くないな、私、と思うのはこんなとき。またそっぽを向いてしまう。 「谷川? ほら、そっぽ向くな、こら。 まあ、佐々木は可愛い生徒だな、確かに」  先生の言葉にしゅんとなる自分がいる。ますます可愛くない顔してるだろうな、私。  そんな私の頬を先生はグニっとつまんだ。 「面白い顔してるぞ、谷川」 「……」 「でも俺には谷川がピッタリなんだ。って言ってもわかりづらいかな。俺の欠けている所を補ってくれるのが谷川だと思っているよ。 また目を逸らす……。嬉しくて恥ずかしいからってのはわかってるぞ?」 「っ!」 「意地っ張りなのも可愛いと思ってるよ」 「……!」  先生は全てを見通すように笑って私の頭にぽんと手を置いた。 「……」  私はちょっと考えて、 「ピッタリ、じゃ、嫌、です」 と言った。 「ん?」 「ちゃんと言われたい言葉があります」 「ふむ、プロポーズじゃ足りないと?」  先生は可笑しそうに私を見た。 「そうか、じゃあ、それを当てに行ってみようかな、谷川先生」 「はい、当ててみてください」  先生はふっと笑って、そして。 「好きだよ、谷川」 「好きです、先生」  被せて言った私に、今度は先生が驚いた。 「本当は素直になってずっと言いたかった。可愛くない私ですが、末永くよろしくお願いします」  私の言葉に先生は本当に嬉しそうに笑って、もう一度私の頭をくしゃりと撫でた。 「よくできました」                                   了
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