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私は可愛くない。
ちょっと違うかな。
容姿は平均的、だと思う。たぶん。
そうでなくて。私は可愛げがないのだ。
「先生、二列目の○○の字、間違っています」
「おお? そうか? あ、本当だ。いつもすまないな、谷川」
私の言葉に高田先生は恥ずかしそうに笑って黒板の字を訂正した。長身で、ちょっとぼーっとした感じのクラス担任、高田先生は女子にとても人気がある。
(童顔で笑顔が可愛いいんだ)
そう思っているのは私だけではないということだ。
「谷川、さっきはありがとうな」
人懐っこい笑顔を向けられ、私はそっぽを向いた。
「……別に、気が付いただけですから」
「はは、そっか。でもいつもありがとう」
「だったらもっとしっかりしてください」
「そうだな」
「谷川さん、厳しい~」
私と高田先生のやりとりを聞いていた女子が笑いながらそういう。
「大丈夫だよ、先生~。それが先生のキャラだからさ!」
女子たちが高田に群がり、フォローをしている。それをみて心がもやもやするのを感じた。自分でも嫌になる。本当はあんなきつい言葉言いたくないのに。でも、先生の前に出るといつもにまして可愛げがなくなってしまうのだ。
「……」
私はなんだかいたたまれなくなって目をそらした。
私にはできない。あんなに素直に好意を示すことなんて。
「……あ、谷川、HRのプリント後でとりに来てくれな」
高田先生は教室をでるとき、一度私の方を振り返ってそう言った。
「せんせー、私取りに行ってもいいよ~?」
一人の女子が上目づかいに高田先生を見て言った。佐々木さん。彼女もきっと私と同じく先生が好きな女子の一人だ。私は高田先生に返事をしようかどうか迷って高田先生を見た。
「ん~、そうだなあ、やっぱりこういうのは学級委員に頼むものかな~」
邪気のない高田先生の笑顔を向けられた佐々木さんは、ちょっと残念そうに、
「そうですか~」
と返す。
「というわけだから、谷川、頼むな」
再び私に笑いかける高田先生に、私は無言で頷いた。
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