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scene:02《象牙色の眩暈》
さっきまでこみ上げてきていた笑いが、凪いだ海のように鎮まっていく。
…そして湧いてきたのは、澱のように重く、暗い欲望。
「──そんなに、悪いことしてるのかよ、オレは」
ドロドロと渦を巻く、重苦しい感情に引きずられるまま繰り返した言葉は、自分で思ったよりもずっと、低く響いた。
「手当たり次第なのは認めるけど、それだって別に、オレが強姦したワケじゃないだろ」
糾弾する颯希の目を、ジッと見返す。
「そもそも、颯希の言う“罪悪感”って何? ──今日、セックスするのに合意した相手が新川だったから、ヤっただけの話じゃん。オレにとっては、それ以上もそれ以下もねぇよ」
そこまで言い切った途端、颯希の肩がピクリと揺れた。…注視してなければわからない、たったそれだけの反応で、オレは気づいてしまう。
瞬間、ぐらりと、腹の底で血が煮えるのを感じた。
「…なぁ。今日、颯希がしたセックスと、オレがしたのと、どこがどう違うの?」
「……な…っ!」
驚愕し、颯希が絶句する。オレの脳裏に、一人の女の姿が浮かび──スッと、視線を颯希の背後に向ける。
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