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scene:03《真夏の陽炎と見えない痣》
「──今日は、やけに興奮した」
真紘はそう囁くと、僕の髪をさらりと掬い──その指先が、かすかに右の首筋を撫でていく。
──…!
その感覚に、ゾクリと背筋に電流のような震えが走り、反射的に、僕は真紘の腕を振り払っていた。
乱暴に腕を払い除けられたにもかかわらず、真紘は少しもたじろぐことなく、笑みを浮かべたまま、僕を見下ろしている。…その目を、まともに見返すことができず、僕は視線をそむけた。
──双子だからって、感情や体感のすべてまで、共有しているわけじゃない。
言い返したい台詞はあるのに、それはなぜか喉の奥で何かと絡まったようになって、声になることはなかった。
真紘にほんのわずか触れられ、震えが走った肌が、僕自身に痛いほど知らしめてくる。
お前はこんなにも、目の前にいる男が恐ろしくてたまらないのだと──
「…いい加減にしろ…!」
覆い被さる真紘の影から、逃れるように立ち上がると、僕はそのままリビングを出て、二階にある自分の部屋へ向かった。
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