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scene:03《真夏の陽炎と見えない痣》
蛇のように絡みつく真紘の気配を振り切り、荒い音が立つのも構わず、背中でドアを閉めれば、僕は一気に脱力感に襲われ、足元から崩れるように、ズルズルと床に座りこむ。
まるで見えない痣のように、真紘の指の感触が、首筋にくっきりと残っているような気がしたけど、腕を上げるのも億劫なほど、僕は疲弊していた。
虚ろな視線を部屋の中に漂わせる。
『…なぁ。今日、颯希がしたセックスと、オレがしたのと、どこがどう違うの?』
鼓膜の奥で、呪詛のように甦る、真紘の言葉。
──応えられなかった。
“ふざけるな”と怒鳴ることも、“気のせいだろ”とごまかすことも、できなかった。
体に残る、甘やかな倦怠感は、確かに真紘の言葉を肯定していて──
「……っ…」
舌打ちして目を瞑れば、高校の入学式で再会した時の、せりかの姿が浮かぶ。
再会したせりかは、身長こそ、小学校を卒業した時のままで止まっていたけれど、いつも短かった髪を肩まで伸ばし、うっすらとメイクもして、記憶にあった少年っぽさを脱ぎ捨てて、すっかり可愛らしい女の子になっていた。
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