scene:03《真夏の陽炎と見えない痣》

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scene:03《真夏の陽炎と見えない痣》

   それとなく訊いてみれば、せりかは何でもないことのように言った。  『あたし達は、あたし達のタイミングでいいんじゃない? 周りにどう言われたって、そんなの、あたし達には関係ないじゃない』  さばさばした物言い。その後で“それに、やっぱりちょっと、まだ怖いし”と肩を竦めたせりか。  特別無理していたわけでもないし、体調を崩すほど我慢していたわけでもない。──お互いのタイミングが“今日”だった。…それだけだ。  そんな、僕とせりかのささやかな、日々と愛情の積み重ね。それが──真紘のあの台詞を聞いた瞬間、土足で踏み躙られたような気がした。  「…ごめん、せりか…」  悔しさに唇を噛みしめると、制服のポケットの中で、携帯が震えた。  鉛のように重い腕を動かし、携帯を取り出すと、液晶には、せりかの名前。  すぐに応答しようとして──一瞬、躊躇する。  今の僕の状態で電話に出れば、せりかには何かしら、感付かれるかもしれない。  僕は、真紘に対する怒りや恐怖を無理やり封じ込め、深く息をついてから、せりかからの電話に出た。            【scene:03 End】
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