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scene:04《鶴の一声と冷たい空気》
『…いい加減にしろ…!』
囲いこんだ腕の檻から、颯希が捨て台詞を残して、抜け出していく。
立ち尽くしたまま、その気配を追いかけるように見送り──ふと、ソファに目を落とせば、駅前にある本屋のロゴが入った、ビニールバッグがあった。
「………」
ため息をひとつ吐きながら、颯希の温もりが残るソファに座り、ビニールバッグの中を見ると、オレの知らない作家の文庫本と、一冊の雑誌が入っていた。──颯希が好きな、パズル雑誌だ。
雑誌を取り出して、何気なくページをめくる。クロスワードくらいならオレにもできるけど、数独とか…あと、ナンバークロスというのは、何なんだ。
「──…真っ白じゃん」
マス目がすべて真っ白で、ヒントらしいヒントもないのに、どうやって解けと? ふざけてんのか?
颯希の趣味を否定するわけじゃないけど、この趣味だけは、理解に苦しむ。双子なのに、どうしてこうも頭の構造が違うのだろう。
はっ…と、乾いた嘲笑をこぼす。
「……オレがマトモじゃねぇからか」
ひとりごちて皮肉に笑い、その、まっさらなパズルのページを指ではじく。
黒く塗り潰された場所など一つもなく、オレにはどうやっても手が出せない──それはまるで、颯希みたいだ。
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