scene:04《鶴の一声と冷たい空気》

1/1
前へ
/504ページ
次へ

scene:04《鶴の一声と冷たい空気》

   『…いい加減にしろ…!』  囲いこんだ腕の檻から、颯希が捨て台詞を残して、抜け出していく。  立ち尽くしたまま、その気配を追いかけるように見送り──ふと、ソファに目を落とせば、駅前にある本屋のロゴが入った、ビニールバッグがあった。  「………」  ため息をひとつ吐きながら、颯希の温もりが残るソファに座り、ビニールバッグの中を見ると、オレの知らない作家の文庫本と、一冊の雑誌が入っていた。──颯希が好きな、パズル雑誌だ。  雑誌を取り出して、何気なくページをめくる。クロスワードくらいならオレにもできるけど、数独とか…あと、ナンバークロスというのは、何なんだ。  「──…真っ白じゃん」  マス目がすべて真っ白で、ヒントらしいヒントもないのに、どうやって解けと? ふざけてんのか?  颯希の趣味を否定するわけじゃないけど、この趣味だけは、理解に苦しむ。双子なのに、どうしてこうも頭の構造が違うのだろう。  はっ…と、乾いた嘲笑をこぼす。  「……オレがマトモじゃねぇからか」  ひとりごちて皮肉に笑い、その、まっさらなパズルのページを指ではじく。  黒く塗り潰された場所など一つもなく、オレにはどうやっても手が出せない──それはまるで、颯希みたいだ。
/504ページ

最初のコメントを投稿しよう!

579人が本棚に入れています
本棚に追加