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scene:04《鶴の一声と冷たい空気》
ああ、塗り潰してやりたい。
──颯希のすべてを、真っ黒に。
「………」
暗い欲望を飲み込みながら、雑誌を元に戻す。…体も冷えたし、着替えるついでに、颯希の荷物も持っていくことにする。
階段を上がり、廊下を挟んで右側にあるのがオレ、左側にあるのが、颯希の部屋だ。
颯希の部屋のドアをノックしようとして──中から、かすかに話し声がすることに気づいた。
──せりか、か。
きっと、せりかにオレとのことを悟られないよう、無理に笑顔を取り繕って、話をしているのだろう。
わかる。颯希のことなら──たとえどんなに些細なことでも。
それでも、オレが欲しくても叶わないものを、手に入れているのは、せりかだ。…颯希の隣で、当然の権利だという顔をして。
遠い。
この地上の誰よりも、血の繋がりは近くても、オレと颯希はこんなにも──遠い。
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