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scene:04《鶴の一声と冷たい空気》
「手塚さん、リクエストの賄い、できました」
そう言って、サンドイッチを盛った皿を差し出せば、ホール担当の大学生・手塚文哉さんが、笑顔を浮かべて振り返った。
「おー、ありがと! オレ、今日はずーっと、堂園のコレが食いたかったんだよな~」
嬉しそうに皿を受け取る手塚さんに、興味をそそられたのか、祐さんがオレを見た。
「へえ、美味そうだな…堂園、オレにも同じモノひとつ」
「…オレに、何か話があったんじゃないんですか…」
呆れながらも厨房へと踵を返すと、オレがすぐに戻ってきたせいか、チカさんが目を丸くする。
「あれ? 堂園、どうした?」
「祐さんから、同じものオーダーされました」
「ああ、オーナー来てるんだ。それじゃ仕方ないよなぁ。──ほらよ、卵とパン」
「ありがとうございます」
チカさんが笑いながら出してくれた卵とパンを受け取り、再び、オムレツのサンドイッチを作る。
「──はい、お待たせしました」
ぶっきらぼうに言いながら、カウンターに皿を置けば、祐さんは“いただきます”も、そこそこに、大きく口を開けて、サンドイッチにかぶり付く。
「…おっ、コレ美味いな。塩気もちょうどいい。──誉、ランチメニューにどうよ、これ」
カフェやボルダリングのジムなどを手掛ける、やり手のオーナーの顔になった祐さんが、誉さんに話しかけるのを、オレは慌てて遮った。
「たかがバイトの高校生が作った賄いを、メニューにしてどうするんですか。──それより、話があるなら、さっさとしてください」
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