579人が本棚に入れています
本棚に追加
scene:04《鶴の一声と冷たい空気》
『それ、効き目弱いっつーか、あまり効果続かないから、こっちも使った方が上手くいきますよ。──まあ、無理矢理はダメですけど』
そんなことを言って、逆ナンしてきたオンナに持たされていた、媚薬入りのジェルを渡してしまったのだ。──それを、祐さんが誰に使うつもりなのかを、確かめもしないで。
そして、翌日。バイトに来たオレが目にしたのは──蒼白な顔をして、頻りに腰を気にしていた誉さんの姿だった。
足元に冷たい空気がまとわりついたような、嫌な予感。
『誉さん…具合悪いなら、帰ったらどうですか』
“いや、まさかな…”と思いながら声をかけたオレに、誉さんは青白い顔の下に微妙な警戒心を滲ませながら、こう言った。
『何でもない。──昨日は、オーナーの引っ越し祝いがあったからな。飲みすぎて、ちょっとダルいだけだ。…気にすんな』
言葉通り“何でもない”フリをして、グラスに水を注ぐ誉さんを見て、予感は確信に変わった。
──ああ、やっぱりか…。
前日のスタッフルームでの、祐さんとのやり取りが脳裏をよぎり、オレは激しく後悔した。
あの日のことを思い出し、胸の中で誉さんに何度目かの土下座していれば、祐さんが遠い目をしながら、しみじみ呟く。
最初のコメントを投稿しよう!