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scene:04《鶴の一声と冷たい空気》
「あの時、堂園が“例の物”をくれなかったら、今の幸せは、まだ手に入らなかったんだろうな…」
「あー、そうですか。ヨカッタデスネー」
──こっちは未だに、あの日のことを思い出すだけで、なけなしの良心が咎めるんだけどな…。
口に出さずに呟きながら、投げやりに応え、カウンターの中を整理していれば、祐さんが口を開く。
「…で、お前はどうなんだ?」
──…!!
いきなり斬り込まれ、危うくカップを落としそうになった。
チラ、と祐さんを窺えば、にこやかな表情の中、油断ならない光を浮かべた目があった。
──ホントに、食えない人だな。
オレと颯希の共通の友人である密が、この人のことを、よく“魔王”と罵っているけれど、もし、オレがこの人の弟だったとしたら、絶対、そんな真似はできない。
そういう意味では、祐さんを罵れる密は、凄いと思う。…成績は颯希と張り合うくらい良いくせに、基本的にアホだけど。
その、基本的にアホな友人の、煮ても焼いても揚げても食えなさそうな兄に向けて、内心“敵に回したくないな…”と思いながら、オレは冷静に答える。
「別に、どうもしませんよ」
店に颯希を連れてきたことは一度もないし、オレの気持ちを話したこともないけど──この人には、何もかもがバレているような気がする。
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