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scene:04《鶴の一声と冷たい空気》
──まあ、バレていようが何だろうが、ここのバイトは結構気に入っているから、辞めようとは思わないけど。
「何だ、つまんねぇな。…青春は短いんだ。のんびりしてたら終わっちまうぞ?」
「…さっき、オレに“生き急ぐな”とか言ったのは、どこの誰でしたっけ?」
そう切り返してやれば、祐さんはクルリとスツールを回転させて、ホールを眺める。
──…なんてわかりやすい“聞こえないフリ”だろう。つくづく、大人げない人だ。
内心でそう思っていれば、ホールから戻ってきた、密の3番目の兄・匠さんが、口端をかすかに上げた。…表情筋が鈍いのか、注意していないとわからないくらいの変化だけど、これが匠さんの平常時の笑顔だ。
「オーダー入ります。…8番に抹茶ラテとクランベリージュース」
「はい」
淡々と告げられるオーダーに頷き、棚から抹茶の缶を取り出していれば、どこから話を聞いていたのか、匠さんが呆れたように肩を竦め、スツールに座る祐さんを見下ろした。
「祐。──わざわざ、厨房から引っ張り出してまで、堂園と雑談か?」
「ああ、そうだった。…いや、現役男子高校生と会話するのが久しぶりで、忘れてた」
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