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scene:04《鶴の一声と冷たい空気》
「誉が、“堂園は見込みがある”って、誉めてたからな。…オーナーとしては、きちんと確認しておくべきだろ?」
どうやら、祐さんの今日の目的はコレらしい…と悟った瞬間、背筋が、自然と伸びた。
「──わかりました。ブレンドはCですよね」
祐さんに応え、珈琲の支度を始める。
密の紹介で、何となくバイトに入ったけど、入ってすぐに、女性客をめぐって問題を起こしたオレのことを、誉さんは、どことなく苦手そうにしていたから、“見込みがある”なんて評価されていたとは、夢にも思わなかった。
ブレンドCは、誉さんが仕上げた店のオリジナルブレンドの豆だ。…自然と、気合いが入るのを感じながら、オレは珈琲を淹れた。
「…お待たせしました」
誉さんの評価に応えるべく、気合いを入れて淹れた珈琲を飲むと、祐さんはニヤリと笑った。
「高水準で合格。──時給アップと、ジムの無期限無料優待のどっちがいい?」
「──ジムで!」
祐さんからの思いがけない言葉に、オレは考える間も置かずに即答した。…祐さんが持つボルダリングのジムは、オレにとって、時給アップより数倍魅力的なモノだった。
「わかった。…ジムには話を通しておく」
オレの答えなど見透かしていたみたいに、祐さんは鷹揚に笑って頷いた。
【scene:04 End】
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