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scene:extra《手の爪痕と不機嫌な視線》
「いや、ちょっと待って。何で今からヤるの確定なんだよ。僕、夕方からバイトあるんだけど!」
颯希が大義名分を振りかざし、オレに離れろと訴えるのを、フンと鼻先で笑う。
「ああ、バイトなら問題ない。…誉さんに頼んで、颯希は今日、休みにしてもらってある」
颯希を迎えに行く前に、誉さんに電話をし、颯希の休みは確保した。…今頃は、颯希の代役として、密が頑張っていることだろう。
これで心置きなくヤれるだろ…と思ったのに、颯希はそれも気に入らないらしく、眉間にクッキリとした皺を寄せた。
「何、その、用意周到ぶり…」
“そこまでするか?” と、顔に書いてあるのが見えるような表情で呟かれ、こっちもあきれてしまう。
「お前、ホントに甘いな。…まだわからないのか?」
ため息混じりに訊ねれば、颯希はムッとしたようにオレを睨んだ。
「…わからないって、何がだよ」
「オレがどれだけ颯希のことを好きかってことをだよ」
「…なっ…!?」
ほぼ吐き捨てるような口調で告げた途端、颯希が目を見開いて絶句した。──颯希のこの反応。“まったく想像もしてませんでした”って感じだろうか。
片手で、スルリと颯希の頬に触れる。
「まだわからないなら──今から、少しは思い知ればいい」
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