scene:01《薄紫の闇と忍び寄るライオン》

1/1
前へ
/504ページ
次へ

scene:01《薄紫の闇と忍び寄るライオン》

   雑誌のコーナーを奥に進めば、すぐに、目当ての物が平積みになっているのが視界に映る。──今日発売した、パズル雑誌だ。  料理にスポーツに音楽にと、多趣味で器用な真紘とは異なり、パズルは、僕の数少ない趣味のひとつだ。  …ちなみに、僕が好きなのは、誰もが知ってるジグソーパズルではない。クロスワードや数独などの、いわゆるペンシルパズルというヤツだ。  ペンシルパズルにも、色々雑誌はあるけど、今日発売したこの雑誌は、全体的に難易度が少し高めの問題が揃っていて、しかも懸賞商品のラインナップも豊富だから、最近ではこのパズル誌が一番気に入っている。──先月は、図書カード2000円分が当たった。  パズル雑誌と、ついでに推理小説の文庫本も購入して本屋を出れば、冬の空はあっという間に、薄紫の闇が広がり始めていた。    本屋のロゴが入ったビニール袋をガサガサと揺らしながら、住宅街を少し急ぎ足で歩く。  自宅の門扉が見えてきたところで、左手首に巻いた腕時計に目を落とす。…今日は終業式で早く終わったのに、いつもより、ずいぶん遅い帰宅になってしまった。  “…颯希”  耳の奥でリフレインする、淡い声。  帰宅が遅くなった、一番の理由を思えば、胸の奥が暖かいような、くすぐったい気持ちになる。  後で電話をしよう…と考えながら、制服のポケットから鍵を取り出し、玄関に差し込む。  「……っ」  解錠したドアを開けた途端、視界に飛び込んできた物を見て、ハッと息を飲んだ。  モザイク模様の玄関に脱ぎ捨てられた、真紘の靴と、その近くにちょこんと並んだ、見覚えのない、女物のローファー。
/504ページ

最初のコメントを投稿しよう!

580人が本棚に入れています
本棚に追加