scene:01《薄紫の闇と忍び寄るライオン》

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scene:01《薄紫の闇と忍び寄るライオン》

   「………」    ──あいつ…またかよ。  ウンザリした気分でため息を落とし、前髪をかき上げる。  両親ともに勤務医で、仕事が多忙で留守がちなのをいいことに、真紘は頻繁に女を部屋に連れ込んでいる。  それが、きちんと“付き合っている”相手なら構わない。…だが、真紘の場合は文字通り、手当たり次第だ。  僕達が通う、私立白鳳学院は、中学から大学までのエスカレーター校なのだけど、真紘の相手は、高等部内だけにとどまらない。  白鳳の中等部でも、大学でも。さらには、近隣の高校に短大にバイト先に逆ナン──と、よくもまあ、そんなに次から次へと相手が見つかるものだと、呆れを通り越して感心するほど、真紘の節操はタチが悪い。  多少見映えが良くて、誘いに乗ってくるなら誰でもいい──そんな態度の真紘を妬む連中が、陰で“ヤリチン”と揶揄していることを、あいつ自身が知らないはずはないのに。  もう一度、ため息をついた時、2階から軽やかな足音が聞こえてきた。  玄関に立ち尽くしたまま、音の方に視線を向けると、足音の主が階段を降りてきて、僕に気づいた途端、まるで電流を浴びせられたかのように、ビクリと体を震わせた。  そこにいたのは、僕と同じクラスの、新川(にいかわ)エリナだった。
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