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scene:01《薄紫の闇と忍び寄るライオン》
「颯希、今日の夕飯、親子丼とオムライスのどっちが食べたい?」
──暢気なものだな。
こっちは正直、とても食欲など起きないというのに…と思いながら、またため息をつく。
「……どっちだっていい」
「んー。じゃあ、冷凍したご飯あるし、オムライスにしようか。…颯希、塩味のピラフの上に、半熟のオムレツと、和風ベースのあんかけをかけたヤツ、好きだろ?」
「真紘」
何が楽しいのか、クスクス笑いながら話す真紘を遮るように、その名を呼ぶ。
「──座れ」
ネクタイを緩めながら、一人掛けのソファに向けて顎をしゃくると、真紘は小さく肩を竦めてから、ミネラルウォーターのボトルを手に、ゆったりと歩いてきた。
野生のライオンが、獲物に狙いを定めながら忍び寄る。──なぜか、そんなイメージが脳裏に浮かぶ。
ガラスのローテーブルの角を挟んで、右側。一人掛けのソファに、片膝を立てて座るのが、真紘の癖だ。
「コワい顔しちゃって」
立てた膝に肘をつきながら、真紘がこちらを見て、クスリと笑う。
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