prelude

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prelude

   もし、始まりの瞬間がいつだったのかと訊かれたら、たぶん、あの夜になるのだろう。  新しい家に越した、4年前。  初めて手に入れた、自分だけの部屋で迎える、夜。  真新しいベッドの上で目を閉じて、深い眠りに落ちようとしていた、まさにその時。  ふと、遠ざかる意識の片隅で、人の気配を感じた。  ──…誰だ?  眠りに落ちようとする体では、その気配に誰何の声を上げることはできなくて。  やがて、掠めるように、ほんの一瞬。  唇を、温かい何かが塞いだ。  その感触はすぐに離れたけれど、それがまだ、こちらに探るような視線を向けているのだけは、はっきりとわかった。  まるで“忘れるな”と訴えかけてくるように、今でも時折、記憶を揺さぶる、あの夜の一瞬。  それが何だったのかなんて──本当は、考えたくもないのに。
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