悩む

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「なっ、なっ、なっ、おいリアお前何してんだ!頭でもおかしくなったのか?!」     「ありゃ。スタンリー兄様」      私が洗面所でゴミ袋を広げて、その上に落ちるよう鼻歌を歌いながらジャッキンジャッキン髪の毛を切っているのを見つけたスタンリー兄様は、鏡の向こうから驚愕した顔で私を見ていた。   「いや質問の仕方がおかしいでしょう?  頭がおかしくなったなら自分でおかしいとか分からないし、朝ごはん一緒に食べて普通に話していたじゃありませんか。やだわ~もう」    スタンリー兄様は2歳しか変わらないせいか、小さい頃からよく遊んでくれたし、私の事をやたらと可愛がってくれている。遊び相手の友達みたいな感覚だ。    しかし、友達と観に行った芝居の舞台であった騎士団に憧れて、    『俺は騎士団で強くなって剣で生きて行くのだ!』    とか言いながらいきなり騎士団への入隊を申し込んだり、筆記テストで落ちたのに再テストを頼み込んで、体力はあるからとギリギリ拾って貰えたりと少々脳筋なところがある。    しかし楽天家だし裏表がないので目上の人にも同期生にも好かれている。    顔も、何にも悩みがありませんがなにか、という陰の欠片も見当たらない180センチを越えたがっしりしたワイルド系イケメンである。流石に攻略キャラだけある。      スタンリー兄様も、確か可愛がっていた妹(私だ)が肺炎で死んでから闇が発生し、好きな女性を失わないよう監禁癖が出る筈だったのだが、私がしぶとく生き残った為に、曇りのない脳筋として成長しているようだ。    知らなかったとは言え、頑張って生き残って良かったぞ私。グッジョブ。   「だって髪は女の……何だっけ……えーと、そう、命だ!綺麗な栗色の長髪が台無しじゃないか!」    あ、デカい声で騒ぐもんだから、集中力が削がれて思ったより短く切ってしまったじゃないか。周りを合わせないと。   「あのねぇスタンリー兄様。髪なんかほっといてもまた伸びるのよ。ちょっと静かにしてくれないかしら?終わってからちゃんと説明するから」    おー、短くしたら、癖が出て若干くりんくりんとしたけど、なかなか少年ぽくていいじゃないか。  悪くない。  少なくとも女には見えないだろう。  こんなショートヘアーの女性はこの国にはまず居ないのだから。    左右の髪の毛の長さをチェックしつつ頷く。  切った髪の毛の後始末をしながら、スタンリー兄様に声をかけた。   「じゃ、終わったんでお風呂に入って来ますね。  その間に、兄様申し訳ないんだけど、緊急の用件で私が呼んでるからって、大至急マリアナを屋敷に連れてきて貰いたいの」    マリアナの家はこの屋敷から20分も歩けば着く。馬なら5分もかかるまい。   「マリアナを?何でだ」   「兄様とマリアナにも関係がある、とおっても大事な話があるのよ。面倒だから1回で済ませたいの」   「そ、そうか。分かった!行ってくるな!」    スタンリー兄様が慌てたように出ていくのを見送りながら、   「さーて、どう話せば理解が早いかしらねぇ……」    私は呟くと、首を捻りながらお風呂に向かうのだった。        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇       「リア!?貴女その髪は一体……」    スタンリー兄様がちゃんとマリアナを連れてきてくれたようで、自室に戻ると兄様とマリアナがお茶を飲みながらコソコソ話をしていた。    話は兄様から聞いていたようだが、ここまで短くなっているとは予想もしてなかったようだ。  目を見開いた彼女の顔からそれが窺えた。      マリアナは、私の幼馴染みで親友だ。    160センチ足らずの小柄で華奢な身体にフワフワの金色の長い髪で縁取られた顔はまー儚げで美しい。美しいって言うか、守ってあげたい可愛い系美少女である。    その割にはR18仕様なのか胸が豊満で、恐らくDカップ、いやEカップはある羨まけしからんボディである。    まあ儚げなのは見た目だけなんだけれど。    サバサバしていて、細かい事に拘らない。  言動も、外面作ってない時は男性のような話し方をしたりする。  ま、だからご両親が心配して、ボロが出る前に王宮へ行儀見習いに出そうと思ったんだろうけど。    私もマリアナも、外では何枚も猫を被っている訳だ。 「マリアナ、ごめんなさいね急に呼び出して」    私は友人に頭を下げた。   「何か大事な話があるとかスタンリー様が仰ってたけれど、一体何事なの?」   「そうだ。リア、ちゃんと話してくれ」    私は2人の座るテーブルに腰を下ろすと、   「兄様にもマリアナにも真剣に聞いて欲しい話があるのよ。と言うか、聞かないと大変な事になるの」    これ以上は出来ない真面目な表情で、私は2人を見つめ、説明を始めるのだった。        
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