オタは手段を選ばない。

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オタは手段を選ばない。

 この世界では、スマホゲームだの言う概念はないので迷ったが、うまく説明できる自信がないので、前世の記憶が蘇り、そこで読んだ小説で、まるで予言のようにこれから起こる筈の出来事を見た、大変リアリティーがありただの夢物語とは片付けられないし、大切な親友に関わる事なので私が出来る限りの事をして助けたいのだ、と力説した。    そして、マリアナがこれから2年間働く王宮での身の処し方、しくじった場合の暗黒闇堕ちモードについても詳しく説明する。   「……ただでさえこれからの王宮でのお勤めが嫌で仕方なかったのに、何だっつーのよ心中だの監禁だのストーカーだのって。王宮も騎士団も変態ばかりの伏魔殿じゃねーか。いくらイケメンでもわたしゃ変態はお断りよ」    舌打ちするマリアナに、私は   「マリアナ、猫が1枚めくれてるわよ。戻して戻して。それに対応さえ間違えなければ、みんな概ね問題ないのよ。間違えなければね」    と紅茶のお代わりを注ぐ。   「あらいけない動揺してしまって。嫌だわ私ったら。ほほほほほ」    スタンリー兄様は小さい頃からよく3人で一緒に遊んでいたのでマリアナの地はとうにバレている。  特に見た目と発言とのギャップに驚く素振りも見せず首を傾げる。   「──しかしお前、なんでアリオン・ヴィルヌーヴ隊長の事を知ってるんだ?ディーン先生まで……いや、そうか、その前世だかで読んだのか。  なんでこの国の人の事が小説になってるんだろうなぁ。それも騎士団がメインなんだろう?  でも隊長は女嫌いで有名だし、ディーン先生も人格者だぞ?」    違うのだ。  アリオンはコワモテなので解りづらいが超シャイなのだ。女嫌いなんじゃなく、単に女性を前にすると緊張してうまく話せないと言うのが正解である。     ディーン先生は、闇堕ちなどする前から媚薬を盛ったり縛ったり、羞恥プレイや言葉責めが心底大好きな真性のド変態である。変態の幕の内弁当のような人なのだ。  家では基本裸だし。  ゲームで腰から下がほぼモザイク処理される唯一の攻略キャラってどうなんだろうか。    見た目の麗しさと眼鏡と柔和そうな笑みにみんな騙されているだけである。    まあどのキャラも闇堕ちさえしなければ、過剰な溺愛傾向のあるほぼ真っ当な人であるが、ディーン先生は性的嗜好が個人的にアウトなので、マリアナが一番関わって欲しくない人ではある。     「ところで、先に聞いておきたいのだけど、マリアナはスタンリー兄様を恋愛対象として見てたりとか……」   「──あるわけないっしょ。ガキんちょの頃から一緒に遊んでた腐れ縁だぞ?  悪いけどチンコ丸出しで歩いててもときめかない」   「女性がチンコ言うな!」   「スタンリー兄様は?マリアナはスペック的にはゲー……小説で主役を張れるぐらい可愛いし、ほらスタイルもいいし……まあ中身はオッサン入ってるしガサツなところもあるし野生児な部分もあるけど、素直だし一般的に見ても可愛いじゃない?」   「1ミリもないな。俺は物静かでおしとやかな女性が好みだ。マリアナ、チンコは流石に女としてどうなんだ」   「イチモツでも言ってる内容は一緒でしょうよ。  それになリア、褒めてるようでディスってるところが多すぎるわ。ケンカ売ってんのか?んー?私は買うぞいつでも。  そんでもってスタンリー、アンタ高望みも大概にしなさいよ。脳筋ゴリラがいきなり人間を求めてどうするのよ。  先ずはチンパンジーで意思疏通が出来るようになってからにしなさいよ」   「誰が脳筋ゴリラだコラ」   「あらチンピラまでいたのね。やだわマリアナ、可愛いって褒めてるじゃないのよ」   「ステーキについてるエシャロットみたいに、食べても食べなくてもどっちでもいいけど彩りで置いてみましたー的な、添え物感が半端ない褒め言葉に喜ぶとでも思ったのかねキミは?んんー?」   「あら、添え物要らなかった?」   「いやとりあえず置いときなさいよ。添え物もなければただの悪口じゃないのよ。  それはともかく、リアが髪の毛を切った理由が分かんないな」   「……?いや、だから騎士団に入るんだってば。内勤希望でもう書類は送っててね、筆記テストも受かってるし、あとは面談だけすれば問題ないの。スタンリー兄様の弟のリアムってことにしてるからよろしく。使える縁故は使うわ」   「……はああぁ?いや、だから何で騎士団に入るんだよ。マリアナが変なのに捕まらないようにしたいならメイドで入ればいいだけだろうが」    呆れたような顔で私を見るスタンリー兄様。   「兄様。私がメイドのような目立たないながらも洗練された女性になれると?身長で既に大目立ちよ。  かかとのある靴履くと180近いメイドから見下ろされるように雑に御世話されるのよ?  王族や他の大貴族から不敬罪で即クビになるか牢屋行きまでありそうじゃない」   「……いや、まぁそれは……」   「だからマリアナの危機の回避プラス、アリオン様の不遇回避の為には騎士団に入るしかないじゃない。私の最推しの人だもの。幸せになって貰わないと!  マリアナ、お勧めは騎士団のアリオン隊長よ。覚えておいてちょうだい。  まあ他に好きな男性が出来るようなら、アリオン様には別の女性を見繕うから早めに教えてね」    キリッと2人を見返すと、マリアナまでが溜め息をついた。   「前世の記憶だかで本で読んだだけの男を勧めるな。実物は変態かも知れないでしょうが。いくらチチが陥没してて今は男の子にしか見えなくてもアンタ女なのよ?」   「陥没してない!Bカップはあるわよ!  ……まあバレないようにサラシ巻くから減るかも知れないけど、内勤でも男しかダメなんだもの。仕方ないじゃない」   「……そうだったわ。リアは目的の為には思い切った事を平気でやる子だったわ」    ふうう、と息をつくと、マリアナがスタンリー兄様を見た。   「スタンリー、出来る限りリアが女とバレないように陰からフォローしなさいよ?まあ実戦部隊じゃないからいいとは思うけど、内勤でも周りは男ばっかりなんだから」   「マリアナが王宮に勤めるたった2年間の間だけだからよろしくね兄様!」    ぶんぶんとスタンリー兄様の手を取り握手をした。   「……なるべく頑張るよ。でもお前も気をつけろ。男ばっかりの寮なんてな、酒と女とエロい話まみれだからな。スルースキル磨けよ。いちいち驚いてたら一発で疑われるからな」   「……頑張る!」      こちとらオタクの前世持ち。  大抵の事では動揺もしないのだ。ふはははは。      
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