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オタ兄は頭をフル回転させる。
【スタンリー視点】
ノーステン王国の騎士団詰め所では、今年は内勤専門の新人が珍しく入ると言う事で、今日の雑用を一手に引き受けている昨年入隊した野郎3人が浮かれていた。
実は、騎士団の内勤はなりてが少ない。
というかほぼいない。
寮に関しては団員が持ち回りでやるしかない。
何故か。
騎士団に入りたがる人間は、国を守るという大義名分を掲げてはいるが、大概が俺のように職業として選ぶので、長く勤められるように鍛えて強くなりたいか、良いところの貴族の子息が団服を着てカッコつけたいかの2択しかないからだ。
どちらのタイプも好き好んで片付けだの掃除だのをやりたい訳がない。そもそも貴族の坊ちゃんなどは掃除をしてもらう側である。手際が悪いことこの上ない。
結果、内勤は週に5日、9時にきて5時に帰る書類整理のみの引退したオジサンと、食事の支度をする食堂のオジサン3人のみなのである。
そのため、自室は各々で掃除して、廊下や食堂の掃除、窓拭きや風呂掃除なんかは新人や入隊して数年の、まあ俺たちのような下っ端が当番表を作り順番でやるしかないのだ。
「なあなあスタンリー、今日新しく内勤で来るの、お前の弟なんだって?」
「……まあな」
妹だけど。超かわいー妹だけど。
今は髪も短くしちゃったから男の子みたいだけど、うちの妹は天使だからな。
働き者だし笑うとすげー可愛いし、自分でガサツとか言ってるけど、料理も上手いし掃除も手早い。
身長高いのを気にしてるけど、その分足も長いしいいと思うが。
我が家が貧乏暇なしなので、家族一同要領よく短時間にこなす癖がついているからだ。
貧乏というのも悪いことばかりじゃない。
そしてリアは頭も良く回る。
父様と母様に髪の毛の件で驚かれた時も、
「料理の時にガスの火で髪が燃えたので慌てて火傷しないように切ったの。で、それに合わせて揃えないとじゃない?慣れてないものだからみるみる短くなって。
ドジよねぇ私ってば」
と言いくるめ、でも領地の人とこの頭で会うのは流石に嫌だからと理由をつけ、マリアナと一緒に王都の王宮に行儀見習いがてら事務仕事で2年間働きに行くとしれっと許可まで得ていた。
王都には俺もいるから安心だと思われたようだ。
まあ領地で働いてもお金にはならないから、話としても悪くない。
マリアナも両親のお気に入りだから、安心を上乗せ出来たようだ。
マリアナは顔はそこそこいいし、まあアレだ、胸もデカいしスタイルも細身で見た目だけなら良家のご令嬢に見えなくもない。
俺やリアなどの前ではチンコだのイチモツだのパンツが小さすぎてケツに食い込んだとか平気で口にする、下品極まりない女だが。
「ところでさ、何でスタンリーの弟は通常勤務にしなかったんだ?」
「ん?ああ、ちょっと気管支が弱くてな。あと人見知りが激しいんだ」
リアと相談した『弟設定』を思い出した。
「あー、気管支弱いと走り込みとかキツいよなぁ」
「そんじゃムチャさせない程度に働いて貰わないとな。こきつかって辞められたら俺らが大変だし」
「わりぃな、頼むわ」
「皆にも言っとくから心配すんな」
ポンポン、と肩を叩かれ、少しホッとした。
そう。気のいい奴らではあるのだ。
「じゃ、夜にでも歓迎会かねて脱衣トランプでもすっか久しぶりに!」
「おお!いいな!!」
「ダメだ!」
トランプで負ける度に1枚ずつ着ている物を脱いでいく脱衣トランプは、笑えるし男の罰ゲーム的には面白いが、リアがやったら洒落にならん。襲ってくれと言ってるようなものだ。
「なんでだよー」
「きっ、気管支が弱いと言ってるだろう!風邪でも引いたら治るまで相当時間がかかるんだ!ただでさえ病弱なんだからアイツは」
咄嗟に病弱設定にしてしまったが、これは結構使えると思った。
「おいおい過保護な兄ちゃんだなぁ~。ま、仕事出来なくなるのは困るし、普通の飲み会にするか」
「そーだな」
頷いてるバカ3人に背中の冷や汗がバレなくて良かった。俺は元々咄嗟の嘘は苦手だ。と言うかウソをつくのが下手くそなのですぐ分かるとリアが言っていた。
(だがなリア、兄ちゃんはお前のストリップは回避したぞ!)
内心ガッツポーズしながら、後でリアと病弱設定について詰めなくては、と心にメモをした。
……だが、リアは酒は飲めたっけか?
クリスマスとか誕生日とかでシャンパンを飲んでいた事はあるが、あれはガキが飲んでも酔わないジュースみたいなもんだしなあ……。
しかしアレもダメだこれもダメだと言ってると変に思われる。
まあ俺の隣に座らせとけばいいか。
俺は忘れていた。
騎士団の飲み会は、普通じゃなかったことを。
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