オタクは脳筋にまみれる。

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オタクは脳筋にまみれる。

「それでは諸君っ!めでたく我が騎士団の内勤で入隊してくれたリアム・プレディン君に乾杯だ!!」   「「「かんぱーーーい!!」」」        部屋の掃除と五体投地をしたら、流石に疲れてしまい、2時間ほど爆睡してしまった。  ドアのノックの音でハッと目が覚めた。   「リアム君、祝宴の支度が出来てるから、良ければ顔を出してくれると助かるんだけど」    廊下からの声に、   「ハイハイ今行きます!」    と返事をすると、慌てて身繕いをして表に出た。    入り口で待っていてくれたのは、マーレイ・ボーンヘッドという同い年の男だった。3ヶ月ほど前に入ったばかりの新人だそうだ。ほわーっとした穏やかな空気の優しそうなお兄さんだ。   「マーレイって呼んでくれ。俺もリアムって呼ばせて貰っていいかい?」   「はい、よろしくお願いします」    大食堂に案内してもらいながら、寮のルールや仕事の進め方などを説明してくれた。新人なので今までかなりやって来たらしく、無駄のない説明で助かった。   「リアムのお陰で俺たち新人や中堅どころまで、みんなすごく助かるんだよ。だから、無理しない程度になるべく長く勤めてくれよ?」   「あ、ええ。なるべく頑張りますね」      最高でも2年しか居られないんだけど。    アリオン様が死刑にも心中騒ぎにも冤罪にも巻き込まれずにマリアナといい仲になれば一番安全だが、もしそれが無理でもマリアナが闇堕ちしない結婚相手を見つけて、アリオン様が別の可愛いお嬢さんとくっついて幸せな結婚でもしてくれれば万々歳。  私は安心して家に戻って見合い相手を探せるのだ。    2年か。長いようで短いけど、頑張るしかない。    アリオン様のエマージェンシーが分かるのは、恐らく私くらいである。  アリオン様に降りかかる火の粉は全てこの私が排除しますよええ。        自己紹介の後に乾杯をして、注がれたビールをちびちび飲む。    普段まったく飲まないので加減が分からないが、スタンリー兄様もお酒は強いし、父様や母様も時々ワインを飲んだりしているので、お酒に強い血筋が入っている、と思いたい。    少なくとも、ビールの1杯2杯は大丈夫だ。念のためおツマミも沢山食べておこう。    乾杯の音頭を取っていた副隊長のジェラルド・ベクターさんは攻略キャラの1人。30歳で既に妻と2歳の子がいたはずた。    うっかりマリアナと恋に落ちると、来世では結ばれようとか言って心中を図る御方である。    不倫ですらドン引きなのに、テメーの都合で心中に巻き込むなとゲームに何度罵倒を浴びせた事か。        でも、チラチラとさりげなく観察してみたが、落ち着いた大人の色気がある涼しげな目元のイケメンである。闇の気配すらない。    これが攻略キャラ補正なのか。    アリオン様といいジェラルドといい、他にもイケメンが大勢いて、誰も彼もキュルキュルキラキラと輝いておりで眩しい事この上ない。    ちなみに1つ下のアリオン様とは親友である。  アリオン様29か。私より11も上なのね。見えないわー。   「おい、リア、ム」    隣に座っていたスタンリー兄様がビールを飲みながら声をかけてきた。  今日訓練で足を捻挫したとかで、足首に湿布と包帯が巻かれている。迎えに来れなかったのはこれが原因で、酷くはないと言うが歩く時かなり痛そうである。   「なに?」   「お前、病弱設定にしといたからな。気管支以外も無理をして体調崩すとかなり寝込むとか言ってあるからそのつもりでな。あと寒さにも弱いと伝えてある」   「……うん?その設定必要なの?」    気管支が弱いことにしとけば、激しい運動が出来ないからと内勤へ応募した事への理由づけになると思ったが、全般的に病弱設定にしなくてもいいような気がする。寒さに弱いとかそもそも必要なのだろうか。   「理由はな……アレだ」    スタンリー兄様の指をさす方を見ると、既に出来上がった人たちが、脱衣ジャンケンをしていて、飲んでたビールを吹き出した。   「騎士団の人間の殆どはな、脱ぐことに全く抵抗がないんだ。というかむしろ鍛えた体を自慢したいから、脱ぎたがると言ってもいい。  お前が全般的に病弱で寒さにも弱いと言っておかないと、脱衣トランプ、脱衣ジャンケン、脱衣うさぎ飛びその他もろもろの脱衣ゲームに参加させられる」    何故すべて脱衣がつくんだ。脳筋ここに極まれりか。   「まさか……アリオン様も?」    見たいけど見たくない。   「いや、隊長も副隊長もたまに参加するが、強すぎて勝てないからまず脱がないな」   「そ、そうなの」    安心したけど、ちょっと残念な気がするのは乙女として反省しなくてはならないところである。   「そうだね……病弱設定ありがとう兄様。ここはスタンリー兄様みたいな人が一杯だと思えばいいのね」   「俺みたいな人ってどういう意味だよ?」   「筋肉がマブダチで、爵位や社会という足かせがなければ裸族になっている方々の事よ」   「酷い事を言うな。……まあ当たらずとも遠からずだが」    こそこそと会話を交わしていると、脱衣ジャンケン組の一人が、   「うおー、何でだー今夜は1回も勝てねぇっ」    と言いながらパンツを下ろしていた。モロだしだ。   「んぎゃっ」  思わず声が出て慌てて目をそらしたが見たものは消えない。   前世でも生で見た事がないのに、いきなり職場の人のモノを見てしまうなんて。    ……というか、エッチとかする前でもあんな大きなモノが、興奮するともっと大きくなる訳で……あの綺麗なアリオン様にも同じモノが付いているのか、と色々と想像してしまって顔が熱くなる。   「隊長と副隊長が脱衣腕相撲に参加するぞー!!」   「マジか!俺も参加するぞー!」   「俺もやる!今夜こそ全裸隊長だあああ!」    ようやくオタ妄想を密封して脳に鍵までつけていたのに、一瞬で鍵が吹っ飛んだ音が聞こえた。    なんですと?  脱衣腕相撲にアリオン様が?    キョロキョロ辺りを見回すと、丸テーブルの前でアリオン様が腕まくりをして、   「アホか。お前らに負ける訳がないだろう」    と笑みを浮かべていた。    神々しい。    負けて下さいいや負けないで下さい。でも直視して耐えられるのかしら最推しの裸なんて。いやこのチャンスを逃すなんて無理でしょ。ガチャでいきなりSレアボイス引き当てたようなもんでしょ。でも乙女がヨダレでも垂らしそうな顔で見入るのはどうかと思うけど今は男だしいいのかな?いいやダメだ煩悩退散!煩悩退散!    私がなむなむと手を合わせて拝んでいると、   「リアム落ち着け」    とスタンリー兄様に肩を叩かれた。   「いや、わた……僕は落ち着いてるんだけどね、どうにも心臓がバクバクしててね」    「だから落ち着いてねーじゃねえか。お前ほんと隊長のファンなんだな」   「ファンではなく大ファン」   「分かった分かった。でもどうせ負けないから安心しろ」      確かにアリオン様が負ける事はなかったが、周りがボロボロ負けてフルチンになっていく為、目のやり場に困った私のエロ許容範囲を超えて鼻血が出てしまった。お酒のせいでもあるのだろう。そうしとこう。    兄様がティッシュを頼んでる間にむせて咳き込んだら血が飛んで、「リアムが吐血した!」と大騒ぎになり、初日早々、私の病弱設定が確たるものとして定着したのだけは良かったと言えなくもないが、メンタル的には大ダメージを食らってしまった。    この、露出狂の脳筋たちまみれの寮で暮らしていくのかと思うと、私のあまり多くない乙女度がみるみる目減りしそうな気がして、ちょっと溜め息がこぼれるのだった。      
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