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廊下の突き当たりにある台所から声は聞えている。
私は入口の青い布の暖簾を潜り、台所へ入った。
誰もいない。
台所の中には、おばあちゃんも雪絵お姉さんも誰もいなかった。
台所は炊事場である六畳の板の間とそれに続く四畳半の土間があり、板の間はリフォームしたらしく、オーブン付きのステンレス性のシステムキッチンが入っているが土間は小さな釜戸と青と水色のタイルで彩られた流しがあり床部分は土間の名の通り固められた土に黒色の石が敷き詰められていて、いかにも昔の炊事場と言う雰囲気だ。
土間から外に出られる様だが戸は閉まっている。
私は戸の鍵が掛かっている事を確かめて、うーんと唸った。
台所には誰もいない。
戸に鍵も掛かっている。
しかし、声は台所から聞えた様に思う。
やはり誰かがいて声を掛け、そして、この戸から外へ出て鍵を掛けたのか?
けれど、そうだとすると何の為に?
「誰も、いないわよね?」
私はもう一度、台所を見回してみた。
誰もいやしない。
「誰か……」
私は、誰かいるの? と声を出し掛けて、止めた。
バカバカしい。
深く考える事じゃ無い。
声はやっぱり気のせいかも知れないし、家の外で誰かが話していた声が聞えただけかも知れない。
不思議がる事何て何も無い。
私はその考えに納得して、土間の戸を見て、うんうん、と頷いた。
もう戻ろう。
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