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私とおばあちゃんは部屋の入口の襖に目を向けた。
「早紀ちゃん!」
雪絵お姉さんの声はどんどん部屋に近付いて来る。
もう廊下を踏む足音まで聞こえる。
「行っておいで、早紀ちゃん」
「えっ、おばあちゃんも一緒に行こうよ。雪絵お姉さん、きっと持ってきたお菓子出してくれるはずだよ。一緒に食べようよ!」
私がそう言うと、おばあちゃんは首を横に振り「私は後で頂くから行っておいで」と言った。
「早紀ちゃーん!」
私を呼ぶ雪絵お姉さんに、はぁーい、と返事をすると、おばあちゃんにまた後でと言って、私はおばあちゃんの部屋を出た。
「早紀ちゃん、おばあちゃんの部屋で随分ゆっくりしていたのね」
もう部屋の目の前まで来ていた雪絵お姉さんが手でヒラヒラ自身を仰ぎながら言う。
今日はとても暑いのだ。
「そんなにゆっくりして無いと思うけど……それにしても、廊下は暑いね。おばあちゃんの部屋は涼しかったから余計暑いわ」
「ええ、ここの廊下は窓も無いからね。夏は暑いのよ。早く冷房のきいた居間に行きましょうか。早紀ちゃんの部屋を案内するのはお茶してからで良いわよね?」
廊下に出た途端に汗が出て来ていた私は雪絵お姉さんに言われるまま涼を求めて居間へと移動した。
窓の無い暗い廊下を雪絵お姉さんの後に続き、玄関まで引き返す。
そして、玄関の正面にある何だかよくわからない生き物を描いた襖を開けて中に入る。
中は四畳半の畳み敷きの部屋だ。
この部屋は控えの間と呼ばれていた。
来客を待たせておく部屋だと聞いたけれど私はこの部屋で待たされた事は過去に一度として無い。
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