壱ノ不思議 廊下の怪

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 私は雪絵お姉さんの言う通り、廊下の事なんて少しも覚えてはいなかったので、確かめる様に足を踏んで、わざとキィキィ音を立ててみた。  面白い。 「ここって中の廊下? この廊下だけがこういう作りなの?」 私はキィキィ音を鳴らしながら雪絵お姉さんに聞いた。 「そうよ。中の廊下。ここだけがそうなっているのよ。さぁ、早紀ちゃん、あなた使う部屋はそこよ」  雪絵お姉さんが指をさした先を私は見た。  白い色の襖。  雪絵お姉さんはその襖を開けると顎をクイッとさせて私に中に入る様に促す。  私は部屋の中に、そっと入った。  八畳ほどの板敷きの部屋だ。  飴色の床に純和風のこの家には相応しくない洋風の家具が置かれている。  ベッドにクローゼット、それに可愛らしい勉強机。  クマやウサギの縫いぐるみまで置いてあり、極め付けは、硝子で出来た鈴蘭をあしらった小さなシャンデリアだ。  それがイミテーションでない事は、灯った明かりから分かる。  誰がどう見ても女の子の部屋だ。 「雪絵お姉さん。この部屋って……」 「フフッ。私が昔使っていた部屋よ。少女趣味でびっくりしちゃうでしょ? ここは、今は使っていないんだけど、家具も今では中々手に入らない良い物で、処分せずにそのままにしているのよ。その勉強机、この間、たまたまインターネットで見たらオークションで三十四万円で落札されていて驚いたわ。子供の頃、好きな人のイニシャルを彫刻刀で彫った事を後悔したわね」 「えっ、どこどこ? 何処に彫ったの?」  私は落札された机の額より雪絵お姉さんが彫ったと言う好きな人のイニシャルの方が気になった。
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