空と蝉

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空と蝉

僕は夏希、彼女は千夏。2人とも夏の文字が入っている。もちろん、夏生まれだ。 最初に出会った時も、話題はお互いの名前からだった。 合っていたのは名前だけじゃない、年齢も血液型も誕生日の月も趣味も考え方もぴったりだ。打ち解けるのにそう時間はかからなかった。 友達以上恋人未満の関係は随分長く続いていた。それでも千夏といる時の居心地の良く、どんな関係であれ一緒にいられればそれで良かった。 嘘。 本当は手を繋ぎたいし、抱きしめたいし、キスだってしたい。 そんな気持ちがいつしか芽生えてしまった。 彼女もそうしたいんじゃないかって雰囲気は何度もあったけれど、勇気が出なくて告白もできなかった。 明日には、明後日にはちゃんと想いを告げようと、臆病さを長引かせてしまった。 結果、何も告げられないまま、千夏はこの世界からいなくなった。 元々肺が弱くて、ちょっと風邪を引いただけで重症化してしまう。特に季節の変わり目は体調を壊しやすい。それがいけなかった。 入院してたったの5日後、18歳の若さでこの世を去った。 初夏を迎えた直後の頃だった。 両肩に重い岩を押し付けられたような、底なしの沼に引きずり込まれたような絶望に襲われた。 彼女のいないこの世はまさに生き地獄だった。 僕の心を奪われてしまったのだから。 それから真っ暗な毎日を送った。何度も何度も死ぬことを考えては躊躇った。 いざ、死を覚悟すると蝉が鳴くのだ。そこではっと我に返ってしまう。 生と死が混在する中、蒸し暑い日々を屍みたいに過ごしていた。
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