7人が本棚に入れています
本棚に追加
空と蝉
僕は夏希、彼女は千夏。2人とも夏の文字が入っている。もちろん、夏生まれだ。
最初に出会った時も、話題はお互いの名前からだった。
合っていたのは名前だけじゃない、年齢も血液型も誕生日の月も趣味も考え方もぴったりだ。打ち解けるのにそう時間はかからなかった。
友達以上恋人未満の関係は随分長く続いていた。それでも千夏といる時の居心地の良く、どんな関係であれ一緒にいられればそれで良かった。
嘘。
本当は手を繋ぎたいし、抱きしめたいし、キスだってしたい。
そんな気持ちがいつしか芽生えてしまった。
彼女もそうしたいんじゃないかって雰囲気は何度もあったけれど、勇気が出なくて告白もできなかった。
明日には、明後日にはちゃんと想いを告げようと、臆病さを長引かせてしまった。
結果、何も告げられないまま、千夏はこの世界からいなくなった。
元々肺が弱くて、ちょっと風邪を引いただけで重症化してしまう。特に季節の変わり目は体調を壊しやすい。それがいけなかった。
入院してたったの5日後、18歳の若さでこの世を去った。
初夏を迎えた直後の頃だった。
両肩に重い岩を押し付けられたような、底なしの沼に引きずり込まれたような絶望に襲われた。
彼女のいないこの世はまさに生き地獄だった。
僕の心を奪われてしまったのだから。
それから真っ暗な毎日を送った。何度も何度も死ぬことを考えては躊躇った。
いざ、死を覚悟すると蝉が鳴くのだ。そこではっと我に返ってしまう。
生と死が混在する中、蒸し暑い日々を屍みたいに過ごしていた。
最初のコメントを投稿しよう!