雨の日の記憶

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あめあめ ふれふれ かあさんが じゃのめで おむかい うれしいな ピッチピッチ チャップチャップ ランランラン♪  ふいに歌が聞こえ、声がした方を見てみると、通りの先から親子連れが傘をさしながら歩いてきた。  幼稚園児くらいだろうか。黄色い帽子を被った小さな女の子が、母親と手を繋ぎながら楽しそうに歌っている。 「ねえ、おかあさん」 「うん? なに?」 「『じゃのめ』ってなに?」 「昔ね、『ジャノメ傘』っていう傘があったんだって」 「へぇ~。じゃあ、『おむかい』は?」 「うーん。『おむかい』じゃなくて、『お迎え』じゃないの?」 「おむかえ?」 「そう。お母さんが、雨の日に傘をさしてお迎えに来るっていう歌でしょ?」 「そっかぁ! キャハハ……! あめあめ ふれふれ──」  女の子が嬉しそうに母親の腕にしがみつき、また歌を歌い始める。  私はそんな様子を、ただぼうっとしまま見送った。
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