雨の日の記憶

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 曲がり角の先に赤いランプが点滅しているのが見える。人だかりも出来ているようで、騒ぐような声が聞こえる。 「車が雨でスリップしたみたいよ」 「まあ、大変」 「フロント部分があれじゃ、助からないでしょうね」  大人たちが色々と話していたが、私にはそのほとんどが聞き取れないでいた。  ただ、大変な事が起きているのだけは分かった。  人だかりをすり抜けようとすると、聞き覚えのある声が私を呼び止めた。 「みっちゃん!」  振り返ると、声の主はヒロくんのお母さんだった。 「どうして、みっちゃんがここにいるの?」 「せんせいが、おかあさんのはなし、してたから……」 「!」  ヒロくんのお母さんも、先生と同じように口元を押さえた。 「みっちゃん、いたの……」 「おかあさん、ここにいるの?」 「えっ? あ……、みっちゃんは行っちゃダメよ」 「……みんなみんな、わたしはいっちゃダメだっていう。なんで?」 「なんでって……」  やはり、答えは返ってこない。  私は人だかりを抜け、救急車の近くまで歩いていった。
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