都橋探偵事情『蛇蝎』

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 バリーンとガラスが割れた。ナイフだ、人なら首に刺さっている。ブヲッと風切る音と共に徳田の差し上げたソフトが飛んだ。そうか徳田が位置を変えたのは直線上に援護、仰向けに倒れている。  違う、確かに誰かが飛び込んだような陰影。だがナイフの音はガラスが割れる音。そしてもう一矢はソフトに確実に命中、浅くても額には刺さっているが手応えがない。危ない。蠍は滑り込むように右に飛んだ。  土師が撃ち込んだ。ソフトの少し下に一発、低い位置に一発、そして三発目は灰皿に当たった。  徳田は灰皿に当たった一発で驚いて右方向に転がった。そして立ち上がる。壁伝いに移動する。ホールの電源がどこかにあるはずだ。  拳銃だ、やっぱり太腿を撃った男だ、これで四発、あっても残り五発。蠍は立ち上がり壁伝いに玄関方向に移動した。ナイフは残り三本、効率よく狙わなければ銃で撃たれる。狙い撃ちとは言えあの距離で当てたのはそれなりに訓練した技術だ。油断すればやられる。  土師はその場にしゃがんでいる。足元に何かが倒れている。触る、滑っとした手触り、血の臭いだ、まさか徳田。気持ち悪いが胴を摩る。胸が膨らんでいた。女だ。手のベタベタを女の衣服で拭う。    あった、スイッチだ。しかしどこのスイッチだろう。灯のスイッチとは少し違う。押す。ミラーボールが回転した。その周辺が明るくなる。カウンターが見える。徳田が走る、ミラーボールに晒されている。  
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