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そのパンツスーツ、とっても似合ってます。背が高くてスタイルがいいってうらやましい。もちろん、着物姿も決まってますけど」
私を見あげるようにしていった瞳に、世辞の色はなかった。
雨中の草履だと足もとが危ない。ゆえに、今夜は動きやすいこのスタイルにしたのだが……。しかしやはり、洋装はしっくりこない。
でも、
「ありがとう」
こっちも純粋な礼を返した。
にこっと表情を緩めた彼女は、
「では」
再度頭をさげ、バックパックが背負われた小さな背中を見せた。―――が、すぐふり返ると、
「実家へ戻る前には、また改めてご挨拶にいきます」
明るい声をよこした。
そこにはつくろった響きがありありと見えていたが、
「うん。待ってる」
構わず、いつも通りの軽い口調で返した。
人影を少なくした歩道をいく彼女の傘が見えなくなるまで、しめやかに降る雨の音を聞いていた。
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