そっと押して……

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 小柄で特に美形でもない、いわゆる普通の女の子。しかしそれでも、あきらめた時点のもう一歩先に、もしくはなにかが待っているかも……。  残念ながら私にも、運命だけはわからない。  ただなによりも、舞台の彼女をまだまだ観たかった。  決して器用とはいえない演技。しかし、ひたむきに客席に挑む飾り気のない姿に、彼女の―――人間の魅力があった。   あなた自身にはわからない。……でも、私には感じられる。  上気した横顔があがって、そして一礼。  小柄な躰は再び駆けだした。  千秋楽、昼公演は三時からだったか―――。  と、石段の途中で彼女の足がとまった。ふり返った目が、見おろす私のそれと合った。  今は見えるはずもない私に、彼女は頬を緩ませた。つくろいを感じさせないその笑顔は、夕べの彼女とは別人のものだった。  顔を空に向けたままの子どもが、母親に手を引かれていくのを見送りながら―――、  さて、一日変更したスケジュールをどう調整するか……。  と、頭を悩ませていたところに、 「ここに祀られてるのはね~」 「うん、だれ~?」  大学生ぐらいのふたりの女子が、突如私の目前に立ちふさがった。 「……天照大神(あまてらすおおみかみ)、だって~」  スマホを見ながらの子がいった。 「アマテラス~……? なんかそれって、どっかで聞いたことある~」  答えた相方に、神社に対する興味がないことはありありとわかる。まあ、スマホのほうも同じようなものの感はあるが……。 「それって、強い神さまなの~?」 「知らないけど……」  と、画面をスクロール。そして、 「あ、日の神だって……」 「ひのかみ~?」 「天気の神さまってことじゃないの……。あ、あの人だよ、ほら、天岩戸の人……」  ヒト……? 「あまのいわと?……ああ、岩ん中に引きこもっちゃった人か~、へそ曲げて~」 「そ~そ~」 「なんでへそ曲げちゃったの~?」 「う~ん……わかんない」  検索役はめんどくさそうに画面から顔をあげた。  そして、「ここいいんじゃな~い、神社の建物もバックに入って~」と、意見の一致を見た彼女たちは、奇妙に顔を傾けピースサインを出す自分たちに、スマホ画面を向けた。  彼女たちのま後ろにぴったりとくっつくようにいる私は、  映ってやれば、驚いて少しは神に敬意を払うか……。  と思ったが、やめておいた。
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