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「え?玲一郎、いくらなんでも全勝とか無理だって。三回勝負とかならワンチャン有るけど。」
岸元君の肩に腕を回して、ヘッドロックみたいにしてじゃれていた尾藤君が、呆れたように言った。
「そうだよ。あははは……くじ運やメンバー運だって有るっしょ?」
尾藤君をくっつけたまま、ヒラヒラと手を振って玲一郎君の全勝宣言を笑い飛ばす岸元君。
確かに玲一郎君と仲間が頑張っても、グループ戦な以上どうしても上手く噛み合わずに負けてしまう事もあったよね。
どちらかに有利なハンデ付けようにも、くじ引きで決めるのでどちらにすれば良いか決められないんだよね。
「そうよ。上手い人にハンデ付けたくても、そうしたら正体がバレちゃうもの。様子見つつ誰がどの役か推理してフォローするしかないわ。敵陣営だとそれも出来ないし。」
「だよな?春日井さんも言ってるけど、それやって役割を推理するの自体、このゲームその物だしさ。」
一息いれてた春日井さんが、優雅に紅茶を一口飲んでため息を付いた。
さっき勝利してウキウキしてる小森君は、テーブルのフライドポテトを一本ずつリスのように高速で食べている。
夕飯食べられなくなるよ?
え!?これくらい、おやつにもならない!?
「どうして今日に限って、そんなこと言い出したのよ。和田君らしくないじゃない、終わったゲームの勝ち負けに拘るなんて。」
「そうだよ。男子で罰ゲーム決めたとか!?」
今日の都合が付いたメンバーの中で、昨日から同じなのは、玲一郎君、岸元君、尾藤君、小森君、春日井さん。それに私が加わる。
曜日によって活動する部活が違うようで、他の子は抜けたり、遅れて次のゲームから参加とかやってるので、玲一郎君が拘ってるのを不思議とは思ってないみたい。
春日井さんが首を傾げているのを見て、今日から参加した隣のクラスの女子が穏やかな和田君が不満そうな顔するのは珍しいと気付いて、話に入ってきた。
同じクラスの子をやっと覚えたくらいなので、この子の名前はうろ覚えだったりする。
確か、玲一郎君と同じテニス部だったような……。
玲一郎君は、体験入部でキャーキャー言われ過ぎてみんなが練習にならないので、申し訳無くて辞めたんだって。
この子は精々、さっきのゲーム負けちゃってて流石の優等生も悔しかったのかな?くらいでスルーしてたみたい。
「えっと、昨日ね。後藤さんと帰りに、今日全勝したらお願い事聞いて貰えるって約束したんだ。それで、ついムキになっちゃってさ。」
「えー良いなぁ、後藤さん。和田君と帰ったんだ。ねぇ、今日は後藤さん一人じゃないでしょ?だったら和田君、私と帰らないかなぁ♪」
照れ臭そうに笑う玲一郎君の言葉に一瞬、ムッとして私を睨んだそのテニス部の子は、冗談めかして玲一郎君の方に身体を寄せて腕にギュゥッと抱き着いた。
あ、あた、当たってまふよ!!?
腕にギュッとしたら必然的にアレが!!!!!
「ねぇ、良いじゃん。私は今日一緒に帰る人居ないもん。ねっ!?」
「え!?ええと……いや、僕は後藤さんと話が……っ!?」
チラッとこちらを見て、どや顔したその子はさっさと勝手に話を決めてしまって、ダイレクトに拒否できない和田君のレディーファースト精神を逆手に引き摺るように去っていった。
「あらま、そういう事なら今日は塾無いし、一緒に帰りましょう?大通りの交差点までだけど良いかしら?」
「あ、女の子だけじゃ危ないし、玲一郎の代わりに俺が送ってやるよ。」
ポカーンと嵐のように去っていった肉食系女子を見送っていた私の肩を叩くと、春日井さんはティーカップを置き、鞄と伝票を持って席を立った。
岸元君もバッグを斜めに掛けると私達の後を追い掛けて店を出てきて、隣に並んだ。
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