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………チッ、…の女…魔だナぁ。……ルか?
「え!?」
みんなと店の前で挨拶をしてるその声の隙間に、掠れたような声が聞こえた気がした。
感情を圧し殺しているせいか、酷く陰に籠っていて余計不吉に聞こえたんだけど。
でも、囁く程度なので誰が言ったのか、振り返っても私には判らなかった。
「どした~?ゴトーちゃん、エサ横取りされたハムスターみたいな顔して(笑)……ってぇ!?」ゴフッ
「失礼だわ、岸元君。後藤さんは小動物っぽいけど、言い方があるでしょう!?」
茶化すように言った岸元君のわき腹に春日井さんの肘がめり込んだ。
ちょうど、右側下辺りを押さえて、無言になった岸元君が痛みに耐えている。
私は、そんな、情けない顔、してないです!!!
昨日とは違うけれど、こんな風にワイワイ言いながら大通りまで送って貰って、岸元君と春日井さんは右に、私は道を渡って真っ直ぐにとそれぞれ手を振って別れた。
「今日のご飯は何かなぁ♪肉の日だから、ハンバーグだと良いな。」
うぅ……お腹も空いちゃった!!
昨日はあんなに短く感じた距離が長いよ。
早く帰って、みんなにLINEでお話ししよっと。
その頃にはすっかりあの変な囁き声の事は、頭から消え去っていた。
ハンバーグとクラスメートとのLINE、それと今日の歌番組に取って替わられていた。
その頃、私の知らないところでは。
「はぁ……僕は了承してないのに、みんな置いてきぼりで勝手に帰っちゃったよ。もう、こんな強引なのは今回だけだよ?」
「ええ~?ごめんなさい♪でも私も和田君とお話ししたかったし、部活だって一緒に出来ると思ってたのに辞めちゃってトークゲームにハマっちゃうんだもん。」
いまだに腕をホールドして、ぐいぐい押し付けてアピールする隣のクラスの女子。
「うん?声援は嬉しいけど、先輩や同級生の部活動に支障になる程だとちょっとね。居づらくて……」
入学して直ぐに、玲一郎が体験入部で入ったテニス部の子らしいが、数週間では男女の違いもあり名前までは覚えてないようだった。
当の本人は、玲一郎が自分を知っているものとしてぐいぐい来ている。
ついでに言えば、乱暴に拒否られないのを良いことに、付き合い始めたと明日言いふらそうと思っているくらいだ。
(あんなに地味でぬぼーっとした子に負けるもんか!!腕を組んでも嫌がられなかったんだから、私の勝ちでしょ!!)
歩きにくそうではあるが、自分を確り受け止められる玲一郎の様子に内心笑いが止まらない。
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