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「おのれ、糞AIめ! 辺境に飛ばされて、もうお先真っ暗、人生も此処で潰えた独身の余り者! 俺のことじゃねーか! 仲良くやってきたと思ってたのに! おまえ、俺のこと嫌いなのか! そうなのか!? ふえーん。酷いよー」
「ブブー。ハズレデス。ソレト、答エハ返歌デト言ッタ筈デス」
「え? 違うの? 本当に? 俺のこと馬鹿にしたんじゃないの??・・・うわー。どうしよ。自意識過剰かよ。恥ずかしい」
やり直しをくらい、食堂に戻ってカレーライスの続きを頬張りながら考える。さっきは、食べ始めてすぐに気付いてしまい、観測室に乗り込んだのだ。まさか、違ったとは。
最果ての、は、この基地の事でほぼ正解らしい。ヒントは、「ほぼ正解」の「ほぼ」とのことで、それが解けたらもう答えにたどり着いたようなものだそうだ。
この基地の、更に末端? あの部屋にあるのは、たしか・・・
カレーを食べ終えた俺は、長い廊下をひたすら歩き、行き止まったドアの前でしばし逡巡する。入ったことは無いが、ここに何が有るかは一応知っている。本来は、異常を知らせる警告のアラームが鳴らない限り、立ち入りを制限されている部屋である。しかし、好奇心が勝った。AIが唆したという建前もある。よし、と、意を決してセキュリティを解く。シュンと音を立ててドアが壁に吸い込まれる。
基地の端に、その部屋はある。細長い、廊下の続きのような部屋には、全て対になった様々な大きさの透明なカプセルが壁一面に並んでいる。その中に眠るのは、様々な種類の、番の生物が一組ずつ。最奥の開けた場所には、人間のカプセルが、これだけは複数の対が床の上に放射状に配置されいる。
一旦入ってしまえば開き直るもので、本当は駄目だと思うと悪戯している最中の子供みたいにワクワクしてきた。何しに来たのかも忘れて一人一人の顔をじっくり観賞していく。
ここに生物が保管されているのは、母星がうっかり早めにダメになったときの、保険である。現在テラフォーミング中の星は他にもあるが、全ての基地に保険がかけられているらしい。噂だけれど。
どういう基準で選ばれたのかは知らないが、たぶん、健康で、優秀で、何かしらのコネがあるんだろ? そんな偏見を抱きつつ、規則正しく男、女、男、女、男、女・・・と並んでいるものの、隣り合う同士のどちらがどちらと番なのだろうと、勝手にカップリングしていく。一周したところで気付いた。
「ここだけ、女が二人続いて・・・余ってる?」
突然、問の答えらしきものにたどりつき、面食らう。カプセルの数は十一。なぜか一人多い。どちらの女が「余り」なのだろうと、ヒントを探す。とはいえ、皆、年齢は同じくらいで、人種は様々。見た目では分からない。ヒントになりそうなものは、識別番号と名前の刻印されたプレートくらいだ。
隣り合う女は二人とも東洋系で一人は「MeiーT」とある。名前はメイさんで、Tは姓か国籍だろう。確認すると、向こう隣の男は「RentoーT」だった。ということは、この二人が対だな。ということは、残る一人が余り者だ。
人形のような整った顔立ちをした、妙齢の女性。プレートの文字は「the torch」。
・・・トーチ?・・・とうち・・・統治?
もう一度、食い入るように彼女の顔を見る。微かに記憶の中にある。たしか、どこかで、見たような・・・
暫くその場で考え込んで、あ、と気付いた。
「なんで、『消えた令嬢』が此処にいんの!?」
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