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メッセージ
中学校の時に気になっていた男の子が、成人式に来なかった。
ヘアピンのたくさん差さった髪を解きながら、ちょっとがっかりしていた。
カーストでは、なんとなく三軍にいた子だ。特別面白かったり、人気があったわけではなかった。でも優しい穏やかな子。確か頭が良かったと思う。だから一軍には好かれて、二軍には嫌われていた子。
そう、国語の教科書の音読の声が綺麗だったんだ。それを二軍がからかうように真似ていた。でも気付かないフリをして、上手だね、と笑う子だった。
美術部じゃなかったけど、漫画みたいな絵が上手くて、四軍に好かれてたっけ。あの子はいつも、休み時間は小説を読んで過ごしていた。ブックカバーを付けた、丁寧に扱われていた本だった。だからあんまり話すこともなかった。でも空気の読めない四軍は、アニメの美少女の話題を嬉々として持っていく。そのたびに本を閉じていたから、あの子の読む小説のしおりは、なかなか進まなかった。
なんでだろう。
なんで来なかったんだろう。
背が高くて、目が綺麗だった、あの子のスーツを見てみたかった。一軍の派手なイケメンよりも、きっと上品で大人っぽかっただろうな。
テーブルに置いていたスマホの画面が光る。式の間、マナーモードにしていたのを忘れていた。覗き込むと、成人式のトークグループで、一軍の女の子が発言していた。
『同窓会、何着て行く?』
『私服?』
『ドレス買ったけど』
『ミホ気合入ってんね笑』
『なんでもよくない? うち私服』
『おっけー』
ぽこぽこ連なっていく会話は、眺めている間に、どんどん脱線していく。
発言しているのは、大体一軍二軍の子たち。三軍以下はほとんど会話に加わらず、既読だけつけている。
中学生が作ったレッテルに、大人になってまで縛られる窮屈さに、ふと嫌気が差す。もしかするとあの子は、これが嫌だったのかな。
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