再会

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再会

平井(ひらい)君」 「百田(ももた)さん。来てくれてありがとう」  同窓会の会場になったのは、ホテルの宴会場だった。会費の五千円札を入れた封筒を持って、受付に近付く。幹司をやってくれたのは、私たちの代の生徒会長の平井君。生徒会長の肩書きで一軍とも親しかったけど、誰とも喋れる優等生って感じで、特別派手ではなかった。今もスーツのボタンを外しているけど、ネクタイも襟も裾も、きっちりと正されている。  彼は渡した封筒の中身を確認して、頷く。 「うん、確かに。もう皆集まってるよ。先生たちも来てる」 「うん。幹司、ありがとう」 「どういたしまして」 「あのさ」 「うん?」 「宮部(みやべ)君って、連絡あった?」  みやべ、と知らない名前を聞いたような顔をされる。それを怪訝に思って、ヤマト君、と付け加えると、ようやく平井君は、ああ、と合点がいったように頷く。 「もしかして忘れてたの?」  あんなに仲良かったのに。薄情者。でも、彼は困った風に首を振った。 「覚えてるよ。ヤマト。苗字慣れしてなくてさ。グループにも招待はしてるけど、参加してなかったな。そういえば」  それなら、同窓会のことも知らないのかもしれない。中学生の頃の、まだきちんとした恋心にもならなかった未熟な感情が、今になってくすぶる。 「まあでも、こっちに帰ってきてはいるみたいだ」 「成人式に来なかったのに?」 「スーツも袴も着たくないんだってさ」 「どうして? 似合いそうなのに」 「百田さん、ヤマトのこと好きなの?」  はっとして、つい反射で首を横に振った。平井君は肩をすくめて笑っている。 「野暮な質問だったかな。連絡はしてみるよ。俺も、あいつがいてくれると気楽だしさ」 「うん……あの、本当に、そういうのじゃなくて。いなかったから気になって」 「分かってるよ。とりあえず、時間もったいないし、入ってて」  平井君が促す。口を開きかけて、これ以上云い訳しても却って怪しいだけだ、と思い直す。  私は大人しく、まだカーストの残り香の漂う同窓生の輪に入ることにした。
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