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二次会どうしようかな、と、会場を出ながら考えていた。最後の最後まで迷っていたので、お母さんの迎えもまだ呼べていなかった。
集団っていうのは、人数の分だけ気が大きくなる。平井君が移動を促しても、酔いを含んだ大人のような子供は、なかなか動かないまま、ロビーで固まっていた。宮部君が云っていたのは、彼らのことだったのかもしれない。
帰ろうかな。喋れる子もいないし。ミコトちゃんも結局、私がトイレに行っている隙に、三軍の男の子たちに取られてしまった。
「宮部さ、ヤバくなかったか」
迎えを呼ぼうとスマホを取り出したところで、そんな会話が聞こえた。ミコトちゃんを取って行った三軍の男の子たちだった。
グループに送られていた、たくさんの写真を確認する振りをしながら、私は心の中で相槌を打つ。そうでしょ、ヤバかった。誰よりもカッコよかった。やっぱり皆、彼を見ていた。
「あー、だよな。なんつーか、ヤバい方」
「立ち振る舞いも、胡散臭いっつーかな」
それが悪口だって気付いて、思考が止まる。
そんな。妬み? 僻み? そうだよ。だって、一人だけあんなに目立ってたんだし。もう一回、中学校のカーストを組み替えるなら、彼は一番上にいたって良いくらい、カッコよかったんだ。一番の人って、どうやっても、誰かからは恨まれるんだ。
「分かる。見えなかったけど、入れてるよな、あれ。背中に」
「ぜってーそう。こそっと調べたけど、あいつ、手の甲にさ。黒いの三つあった」
「なにそれ」
なにそれ。ホクロのことかな。
「あれ、試し彫りってやつだろ。刺青入れる前の、テスター」
「うわガチじゃん。なんで来れたの、それで」
「さー。小暮井さんがいたからじゃね? 仲良さそうだったじゃん」
「うっわマジ? 宮部の女だったのかよ、結構狙ってたのに、さすがに手出せねえな。ヤクザの女とか」
「百田ちゃん」
はっとする。綺麗な声。良い匂い。
ミコトちゃんがそっと、私のスマホを覗き込むように、背後から私の肩に顎を乗せた。
「あ、写真。さっき撮ったの、グルに送っとくね」
三軍の男の子たちが、さっと黙るのを感じた。そういうところは何も変わってない。自分たちの上に立つ一軍が気に入らないのに、彼らがいたら慌てて目を逸らす。狡い。
「二次会どうする?」
ミコトちゃんは、多分気付いてた。気付いてるけど、見ない振りをしてる。
知らなかった。知らなかったな。
目立つって、苦しい。キラキラしてるのって、関係なくても、嫌われる。だって私がそうだった。狡いって羨んで、勝手に嫌ってた。
ミコトちゃんからしたら、私たちの方が、ずっと狡い。
私は、顔の横にあるミコトちゃんの頭に、こつん、と頭を乗せる。
「行かない」
「ん。そっか」
「だってさ」
「うん?」
「こんなに可愛い女の子がいても、釣り合うくらいカッコいい男の子が一人もいないんじゃ、行くだけ損だよ。身の丈に合わないの気付いてないし、女の子に接待されたことしかないんだろうね、可哀想!」
聞こえるように声を張る。一人じゃできなかっただろうけど、酔いと人数は、私の心を大きくする。
んふ、とミコトちゃんが、私の耳元で小さく笑う。大人なんだし、我慢しなくて良いじゃん、って呟くと、ミコトちゃんは頷いた。
「んはは。百田ちゃんって、面白いね」
「だって、悔しい。なんか。悔しい。選べるって、自惚れてるとことか、気持ち悪いよ」
「うん。うん。ありがと。嬉しいな」
「ミコトちゃんは、可愛いんだよ」
「百田ちゃんも可愛いよ。こんなに可愛い百田ちゃんを、大したことない、器の小さい、しかもお酒の入った男のいるとこに、放り出すわけにはいかないな」
言葉の続きを、優しく飲み込むように遮る。王子様みたいな言葉。もしかして、これも宮部君に云われたのかな。
悔しい。でも、頷けるくらい、彼女は魅力的だ。
「だから、二人で抜け出しちゃおっか」
「……うん。うん、そうする」
頷く。ミコトちゃんは、私の手を握って、会場を出て行く。
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