1人が本棚に入れています
本棚に追加
星の見えない曇り空を、いい夜だと思うようになったのは、いつからだっただろうか。
ぼんやりと空を見上げて、椎名は考える。
星明かりや月明かりは眩しすぎて、なんだかうるさい気がしてしまう。
視線をずらすと、遠くには街明かりが、羽虫のようにちらついていた。そう、ちょうどあんな感じだ。
ざわざわと揺れる光の粒に、いくつかの通信が重なって、椎名は顔をしかめた。
自分の名が呼ばれているのをわかった上で、無視をしていたが、流石にこれ以上はまずそうだ。
「聞いているの、椎名隊員? ぼさっとしないで。皆に続いて」
「へいへい、仰せのままに」
きんと響く女の声から逃げるように、ぼそりと返事をする。
防寒の役目はいっさい果たさないくせに、ごわごわとして動きづらい防護服が、椎名をいっそう苛つかせた。
同じ格好の、ずんぐりした影がいくつか、ひび割れたビルの中に吸い込まれていく。
この仕事は嫌いではないが、始まるまでがどうにも億劫でいけない。
曇り空を名残惜しそうにもう一度見上げてから、椎名も欠けた入口をするりとくぐった。
最初のコメントを投稿しよう!