雨の日の憂鬱

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 ――フーゾクしかないかもな。  そういえば、そんなことを言った人がいたっけ。  そうそう。あの、イヤな男。  亡くなった叔母の連れ合い。  いちおう、「おじ」とか、「おじさん」と呼んでいる人だ。  その人が、祖父の法事の席で言ったのだった。  ――フーゾクなら、晴れてる日でもなんでも、自分の都合のよい日を選んで働ける。  言ったとたんに、母にとがめれれ、「ごめんごめん冗談」と謝ってはいた。  でも、あのときの、あたしの体を舐めまわすイヤラシイ目つきには、ゾッとさせられっけ。  もちろんあたしはフーゾクなんかには行かず、クウドソーシングを選んだ。インターネットを介して細かな作業を請け負い、晴れている日だけ働いて、自分のお小遣いぐらいは稼ぐようになったのだった。  ふと……。  階下で物音がした。  ……ような、気がした。  壁の時計が、十二時を指している。  どうやら、薬が効いて、いつの間にかうとうとしていたらしい。  あたしは横たわったまま、耳をそばだてる。
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