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血まみれの女の人の幻覚を見た二日後に、その女の人の顔写真が新聞に載った。交際していた男性に殺されたのだという。あたしが幻覚を見た次の日に殺されたのだった。
それは、あたしの住んでいるところから遠く離れた県での犯罪だった。あたしはその女性の名前を知らなかった。いつ、殺されるのかもわからなかった。
つまり、あたしの予知夢的な幻覚は、「いつ」「どこで」「だれが」被害にあうのか、まったくわからないのだ。こんな予知では、なんの役にも立たない。警察だって、相手にしてくれないだろう。
幻覚のことは、両親には一度だけ話したことがあるけれど、
――おかしなことは言わないほうがいい。
と、たしなめられてしまった。
それ以来、だれにも言えず、あたしはもんもんとしている。
と……。
始まった。
幻覚が見え始めたのだ。
目の前に、灰色の部屋が見えてきた。
コンクリート打ちっぱなしの壁に囲まれた、窓のない、密閉された部屋だ。
若い女の子が、ぺたっと床に座って、うなだれている。長く、黒い髪が前に垂れて、顔は見えない。着ているワンピースは、洗濯したこともないのか、薄汚れていた。
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