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息が苦しい。
口の全部と、鼻の半分が、大きなガサガサした手でふさがれていた。
「騒ぐなっ」
影は恫喝した。
そのときになって、ようやくあたしは、自分の上にのしかかる影の正体を見ることができた。
おじだ。
あの、イヤラシイ男だ。
人間のものとは思えない、ギラギラした目で、あたしを見下ろしている。
おじの獣じみた顔に、さっき見た幻覚の続きが重なった。
地下室の光景だ。
女の子が、うなだれた顔を、けだるげに持ち上げた。
垂れ下がっていた長い髪も引き上げられ、その間から現れた顔。
その顔は。
あたし。
だった。
おじが、黄色い歯をむいた。
「へっへっへっ、心配するな。殺したりはしない。たっぷりと楽しませてもらうからな」
あたしの目の前から幻覚が消えて、おじの下品な笑い顔だけが残った。
ああ、なんて役に立たない予知能力だろう。
あたしは泣いた。
〈了〉
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