1 コソドロよりも気になること

3/4
前へ
/49ページ
次へ
「ご苦労だったな、私兵団」  強い声に振り返ってみれば、黒服の男達が数人歩いてくるところだった。ローブの少女の脈が速まるのが伝わってきた。  私兵団のクタクタな服よりいい作りの、襟のついた黒い制服。彼らは国に属する正式な軍人だ。進化の事情はあちらも同じなのか、布の量が全員バラバラかつ多くが半袖半ズボンで、へそ出しスタイルの男もいた。上下とも長袖なのはたった1人。  ここだけの話、作りがいい分私兵団より変だと思う。  半袖軍人達の妙な迫力に押されて、ハルトは少女の手を放したが、彼女は動かなかった。 「そこの女。盗みについて何か知ってるんじゃないか?」 「わ、私、何も盗んでなんかないです」 「目撃証言とピッタリなのはどう説明するんだよ? 彼女どうします?」  ハルトは少し驚いた。しゃべっていたへそ出しが指示を仰いだのは、進化前のはずの長袖だったからだ。  長袖の男が2,3歩こちらへ進み出る。肩近くまで伸ばされた髪は、日没直後の東の空の色をしている。品のある青い目は穏やかなようで隙がない。動物ならきっと猛獣系。まだ若く見えるが、整った容姿の持つ力なのか、ただ者ではない雰囲気だった。  彼は厳かな低音の声を発した。 「1つ聞くが、星を模した金色のブローチに覚えはないか?」 「えっ? で、でも、知らないですよ私。ちゃんとお金も払いました」 「ふむ、詳しく聞かせてもらおうか?」  じりじりと、ローブの少女が後退する。ついには逃げ出した彼女を軍人達が追おうとした時、ハルトは思わず口を開いた。 「待って!」  みんなが足を止めた。そんなに注目しなくていいのに、と思ったが、ハルトは長袖の軍人の正面に回り込んだ。彼にどうしても言わなければならないことがある。 「軍人さん。あんたがリーダーですよね? どうしてあんただけ服がダサくないんですか?」
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加