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辺りが、主に軍人達が予想外にざわついた。長袖の男が片手を上げ、外見の印象通りスマートに部下を制する。
「それは軍への挑戦か? それとも野蛮な褒め言葉として受け取るべきか?」
「どっちでもない。俺はただ、この制服のシステムは変だと思ってるんです」
「変?」
「だっておかしいですよ。うちに女の団員が増えないのは絶対この服のせいです。男の中にも『あんな服着たくないなー』って思ってる人がいるかも知れない。見た感じ軍も同じですよね? それって、この国が優秀な人間をみすみす逃してるってことになりませんか? そう、クラインガルトは損してます!」
くすぶっていた持論をぶつけて、ハルトがふと気がつくと、周りにいた軍人達は愚か、通行人まで2人から遠ざかっていた。近くの店の壁に半ば貼りついている人までいる。さすがに遠慮がなさすぎたか。
「……それで、服が普通なあんたなら何か知ってるんじゃないかと思って」
いきなりすみません、と一言足してみる。観客のヒソヒソ声が「殺されるぞ」と言っているのがハルトの耳にも届いた。
しかし、こちらを見下ろす当人は表情を変えなかった。
「ふむ。そなた、どこまで知っている?」
「え?」
「いや、聞くだけ無駄か」
思い直したように、すぐに自分で否定する。
「個人的には一度ゆっくりレクチャーしてもいい……が、そういう訳にもいかない。私も多くは知らない身だからな」
長袖の男はハルトをじっと眺めていた。呆れているのか何なのか、よく分からない視線だ。
レクチャーがどうのこうの、とヒソヒソ声がうるさい。
「だが、これだけは言っておく。クラインガルト建国以来、軍やそれに類する組織はこのシステムを続けてきた。その意味をよく考えてから発言するんだな」
「はあ」
「無知は力か。そなた、名は?」
「ハルトです」
覚えておこう、と冷ややかに言って、彼は悠々と歩き始めた。観客と化していた軍人達もリーダーに続く。もちろんハルトも足早にその場を離れた。爽やかな日なのに体がちょっと汗ばんでいるのを感じた。
すっかり忘れていたが、ローブの少女はいつの間にか行方をくらましていた。
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