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18 *
「……あ……、あか……ね、さ……っ」
茜さんからの口づけが重ねられていくごとに、身体の反応が強まっていくのが自分で分かり、それが怖くて茜さんの名前を呼びたいのに声が裏返ってしまう。
「やっ、……あ、……これ……?」
羽織っていたジャケットが取り上げられる。それよりも、早くもっと口づけてほしい衝動に駆られて、喘いだ。ゆっくりと舌を吸い上げてから、茜さんが「いつになく甘い匂いがする」と呟いた。
「……に、におい……?」
ようやく、呆けたようになっている俺の頭は、自分がヒート状態になったことに思い至った。無意識に抑制剤を探そうとして、でも今はどこにもないことに気づいて狼狽える。ベッドに押し倒されたまま、必死に茜さんを跳ね除けようとしても、茜さんの身体はびくともしてくれない。
「だ……だめだ……! おれっ、気持ち悪いから……!」
「――律」
混乱を極めて悲鳴みたいな声を出してしまった俺の名を、茜さんが呼んだ。
「……顔が、真っ赤になっている。可愛い」
「か……?」
想像もしていなかったことを言われて、俺は固まった。ふっと笑ってから、茜さんは俺の着ていたシャツのボタンを外していく。合間合間に、口づけをしながら。
「あ、あかねさん……」
「なに?」
相槌は打ってくれても、口づけは止めてくれない。やがて茜さんの形の良い唇に乳首を嬲られて、それから、どんどんと自分の理性が融けていったけれど、止めることができない。
「ん……っ、う」
温かな唇と舌で責められるだけでも自分でも笑えるほどに反応してしまっているのに、もう片方も指で優しく弄られると「きもちいい」としか言えなくなってしまう。人の手に触れられることはもう無理だと思っていたのに、茜さんが触れていくところはどこもかしこも、気持ちいい。
「あ……、あかねさ……いい」
一番敏感な部分を指の腹で緩く擦られ、強烈な刺激ではないはずなのに全身が快楽をもっと、と求めてきて身もだえる。自分の雄の部分が早くも解放を求め始めていることに恥ずかしさは感じたものの、与えられるのはただ口づけだけだった。
「――濡れている」
「……ご、ごめん……なさい」
俺の――オメガの下肢は、アルファである茜さんとは同じ男なのに構造が少し違う。雄の部分は勃つことはできても小さいし、後孔は雄でも受け入れられるように、特に発情期の時などは自然に濡れる。自分でも分かるくらいにそうなるのは初めてで、羞恥のあまり自分の手のひらで顔を覆うと、小さく笑う気配がした。
「良かった。律が、アルファに恐怖心を持っているんじゃないかって、不安はあったから」
「……あかねさんが、さわるとこ……きもち、よくて……、あかねさん、だから……!」
優しい声で囁かれて、それでも恥ずかしさは消えない――けれど。俺も頑張って返事をすると、するりと下肢に茜さんの大きな手のひらが伸ばされた。
「甘い匂いなのに、……興奮する」
「ひぁっ……! や、やだ……っ」
茜さんの指が後孔に入ってきたのは分かったけれど、ヒートを起こしている身体はそれじゃない、と暴れる。俺を傷つけないように蠢く動きに、堪らなくなって茜さんの身体に自分の身体をすり寄せてしまう。
「も、いい……から!」
いつもなら抑制剤で抑え込むせいで、ただの体調が少し悪い日くらいだったのに。ひたすら、茜さんのものを受け入れたい欲望に、自分でも訳が分からない程の欲情に、勝手に涙が零れていく。もういい、と何度叫んでも、じっくりと慣らす動きは止めてもらえない。硬くて熱い茜さんのものが俺の身体に押し当てられた時には、ほとんど本能のままに――悦んでいた。
「あっ……、ん……は、っ……あああっ」
ぐ、と挿入される違和感よりも、熱量を持った雄芯で押し広げられる気持ち良さに――敏感な中を、愛しい人のもので擦り上げられる期待で、自分でも笑えるくらいの高い声が出ていた。
「――律、気持ちいい」
俺も、と答えたいのに喘ぎ声しか出てこない。中を――俺の中の気持ち良いところを探る動きに、追い詰められていく。
「……あかねさっ、ん……、おれ、すき……っ! っ、んう……っ」
頑張って見上げた、茜さんの瞳の色が変わった気がした。腰を抱えられ、茜さんに背中を見せる体勢へと変えさせられる。どんどんと律動が早まっていく中、耳元で「噛むよ」と短く囁かれて、無我夢中で頷いていた。
「――――あああっ!!」
首を固定されてすぐに、うなじを噛まれる痛みが襲う。痛いのに、番いになれたという喜びが勝って、俺は悲鳴なのか、喜びの声なのか訳の分からない声を上げていた。うなじに口づけを繰り返してから激しい抽挿が何度も、繰り返される。
「……お、おく……いや、だ……あ……んっ!」
「いや?」
背中で茜さんが笑う気配がした。こんな、もう少しでというところでゆっくり焦らすような動きに変わり、堪らなくて自分の腰を押し付けると、また体勢を仰向けに変えさせられた。
「いや、……じゃなっ、……ひ……っ」
両足を折り曲げられて今までになく深く茜さんを受け入れて――自分の頭が、白くなった。「きもちいい」だけを馬鹿みたいに繰り返す。そうして、強い突き上げと共に俺の中に入り込んでいる茜さんのものが更に形を変えたのが分かって、目を見開く。
「ふ、あっ……やあっ、?! ん、ああ………っ!!」
「っ、……律」
強く抱きしめられながら、茜さんの放ったもので自分の中が変えられていく、そんな予感に震えながら、俺自身も限界を迎えていた。
「あ、ぁ……っ、い、いった、のに……! 」
「律の中が気持ち良すぎて……収まらない」
苦笑しながら口づけられると、また全身が快楽の波に包まれていく。そこから、記憶は途切れ途切れになり――次に気づいた時には、時間の感覚を失っていた。
「……ん」
いい、匂いがする。心地よくて顔を摺り寄せると、もぞりと動く気配がした。
「律、大丈夫か」
「あ……あかねさん?」
自分の声が掠れている。目蓋はとりあえず開いたけれど、まだ眠っていたい気持ちの方が大きい。それに、身体が怠い。
「気を失うように寝てしまったから、心配した。無理をさせてしまって、すまない」
茜さんが、隣で寝ていた事実に、ようやく頭が追いついてくる。上体を起こした茜さんが、俺の頭を抱え込むようにして、またうなじに口づけてきた。それから水を飲ませてもらう。
「だいじょうぶ。眠いけど……くっついているの、しあわせ」
まだ夢の中にいるみたいに、頭の中がふわふわとしている。笑いながら茜さんの腰にくっついたところで、カーテン越しの窓の外が明るいことに、気づいた。
「あれ……ここ来てから、どのくらい経ったっけ」
「今は気にしなくて良い。もう少し落ち着いたら、家に帰ろう」
うん、と頷くとまた強い眠気が押し寄せてきて、俺は茜さんにくっついたまま、眠った。
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