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そんな少女にも、憧れの人がいた。
日本史の教師である。
彼は、いつも決まったトーンで話をする。表情の動きも多くない。それでいて、何故か急に物真似をしだしたり、冗談めいたことを言ったりするのだ。生徒たちはいつも呆気に取られているが、彼は何事もなかったかのようにまた授業を続ける。さらに生徒たちは置いてきぼりになる。その様子が少女にとっては可笑しくてたまらないのだ。
少女にとって彼の声は心地よいものだった。誰に媚びることもなくただ淡々と自分の言いたいことを言う。その声が、彼女は好きだった。
少女は恋を知らなかった。
だから、彼女の言う「憧れ」が恋愛の意味をもつのかどうかは、彼女にもわかっていなかった。
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