不機嫌のワケ

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 ***   学校がテスト一週間前になり、図書室に来る人たちはほとんどテスト勉強をしている。図書室が自習室代わりになっているのだ。だから、受付は開店休業状態。私はテスト勉強をするか、読みかけの本を読むかで少し迷いながら、何気なく藤沢先輩の方を見た。 「……」  藤沢先輩は本を読んでいる。その顔を見て、ハッとした。  本を読んでいる時の先輩の顔には眉間に皺がなく、怖さが半減、いや激減していた。少し憂いを含んだその表情は、はっきり言ってイケメンの部類に入る。  それに気付いた時、やっと腑に落ちた。それは、これまでになんとなく感じていた、図書室での異変。  この頃、少しずつ女子が増えたような気がしていた。最初は単純に利用者が増えただけなのかと思っていた。利用者が増えて嬉しいな、とまで思っていたくらいだ。  そのうち、女の子たちが決まって木曜日にだけ図書室を利用することに気付いた。だからというわけでもないけれど、彼女たちの顔も覚えてしまった。  元々、よく利用する人たちの顔は覚えている。図書室によく来る人は少数派だし、覚えようと意識しなくても、受付でやり取りをしていれば嫌でも覚えてしまう。  でも、彼女たちはそうじゃなかった。木曜日に図書室に来て、受付から一番近い席を陣取る。一見、本を読んでいるようだけれど、そうじゃないことは一目瞭然。しょっちゅう、チラチラと視線が動くのだ。  ──彼女たちは、藤沢先輩を見ていた。  よく来るな、と思っていた頃は、彼女たちは本を読んでいるフリをしながら、利用時間が終わると本を書架に戻して帰ってしまっていた。でも、そのうち本を借りていくようになった。  今では、私と藤沢先輩とで役割分担を決めていて、受付は主に私が担当し、書架への返却を藤沢先輩が担当している。その方が効率がいいからだ。藤沢先輩が受付にいても、手持無沙汰になってしまうことがほとんどだ。それなら、別の仕事をやった方がいい。でももちろん、その役割分担が逆になることもある。  彼女たちは、その逆になったタイミングを見計らうかのように受付に来るようになったのだ。藤沢先輩に貸出返却処理をしてもらいたいということは、誰が見たって明らかだった。  彼女たちも気付いていたのだ。藤沢先輩の不機嫌じゃない顔に。  そう思うと、何だかもやもやとしてしまった。  誰に迷惑をかけている訳でもないし、別にどうということはないはずなのに──。
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