不機嫌のワケ

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 *** 「どうしたの?」  いきなり真由ちゃんの顔がにょきっと現れ、私はあまりの驚きで椅子から落ちそうになる。 「びびび、ビックリしたっ!!」 「失礼ね」 「だって、急に真由ちゃんの顔が!」 「よけい失礼でしょうがっ!」  ムッとした真由ちゃんだけれど、すぐに真顔になって、もう一度「どうしたの?」と聞いてきた。  真由ちゃんは鋭い。いくら隠そうとしても、最後には白状させられてしまう。これまでの経験で、私はそのことをしみじみと実感していた。だから、藤沢先輩目当てに来ている彼女たちのことを、真由ちゃんに話してみた。  すると開口一番、真由ちゃんはこう言った。 「恋、だね」 「だよね。あの人たち、藤沢先輩のことが好きなんだよね……」 「違うわよ」 「へ?」  真由ちゃんは呆れたように、私を指差す。 「あんたよ。まどかのこと」 「えぇっ!? いやいやいや、違うでしょ」 「だって、藤沢先輩のファンの子たちが気になるんでしょ?」  ファンって。アイドルじゃあるまいし。 「き、気になるって言っても……そういうんじゃないよ」 「じゃ何よ?」 「んーと……先輩の良さを知ってるのが、私だけじゃなくて寂しいなー……とか」  真由ちゃんの目が点になった。そしてなんか、真由ちゃんの視線から憐れみのようなものを感じる……。  そんな私をよそに、真由ちゃんは断言するように言った。 「それ、嫉妬だよね」 「!」  私の目が大きく見開く。  え、ちょっと待って? 嫉妬!?  私は慌ててこれまでのことを思い返してみる。  藤沢先輩が見た目によらず優しいこと。すごく気遣いをする人ってこと。努力家ってこと。歴史ものが大好きだってこと。本を読んでいる藤沢先輩の穏やかな表情。  そして……そんな藤沢先輩目当てに図書室へ来る女の子たち。それに、もやもやする私。  真由ちゃんを見る。真由ちゃんは「やっとわかった?」とでも言いそうな顔だった。  ──語るに落ちた。  私は真由ちゃんとの会話で、自分の恋心を自覚してしまった。 「……そうみたい」 「まどかのいいところって、バカみたいに素直なところよね」  真由ちゃん、一言よけいなんだけど。  横目でジロリと睨むと、真由ちゃんは笑いながら、私の背中をポンポンと軽く叩いた。 「素直で可愛いって言ってんの! それより」  真由ちゃんが楽しそうにクイと口角を上げる。美人に拍車がかかる。 「ガンバレ、まどか!」  何をどう頑張ればいいのかいまいちわからないけれど、とりあえず私はコクンと頷き、にへらっと笑ったのだった。
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